2023年5月15日、BASFジャパン株式会社と全国農業協同組合連合会(JA全農)は、株式会社クボタと農業領域において、システム連携のための実証試験を開始すると発表した。
この三者間の連携により、農業分野における効率化がさらに進むことになると予想される。
本記事では、今回の連携に至った背景を通じて、スマート農業による肥料コスト削減の仕組みについて軽く紹介。
衛星データ解析従事者が意識しないといけない外的要因の重要性についても軽く考察しています。
連携に至った背景
今回の連携は、BASFとJA全農が共同で開発・運用を進める『ザルビオ® フィールドマネージャー』とクボタの『KSAS』を組み合わせることによって、可変施肥に基づく、農業効率化がさらに進むといったものである。
可変施肥とは
今回のキーワードとなるのは、可変施肥(かへんせひ)。
可変施肥とは、ほ場内の場所ごとに肥料の散布量(施肥量)を変える手法のことである。
土壌に応じて、肥料の量を調節することにより、肥料の量に対する収穫量を最大化できるといった仕組みだ。
実は、昨今の日本の農業分野において、この可変施肥の考え方が重要視されており、このことが今回の連携を後押ししていると考えられる。
可変施肥が重要視されている主な理由は2つ。
化学肥料の価格高騰による需給バランスの崩壊と日本政府の政策目標の見直しだ。
肥料価格の高騰
可変施肥が重視されている最も大きな要因として、肥料価格の高騰が挙げられる。
大規模な農作業において、今や欠かせない存在となった化学肥料だが、近年はその価格の上昇が著しい。
特に肥料に使用される尿素の価格は、令和4年6~10月には94%の上昇、同様に塩化加里も80%と著しい上昇を見せている。
肥料価格の高騰は、令和4年11月以降も続いており、これまでの価格の約2倍を上回っている。
同様に複合肥料の価格も、令和2年と比較し、1.5倍以上に上昇する等、肥料の高騰問題は、水面下で深刻な社会課題になっている。
このような価格高騰の背景には、ロシアのウクライナ侵攻やベラルーシに対する経済制裁、中国の輸出規制、円安等、様々な外部要素が絡んでいるが、とりわけ、ロシアやベラルーシ・中国等、化学肥料の原料生産上位国の輸出が滞ったことによる流出量の低下が、今回の価格高騰の大きな要因となっている。
政策目標の見直し
また、ウクライナ侵攻前の2021年に日本政府が掲げた2050年までに化学肥料の使用量を30%削減するという政策目標も関係していると考えられる。
日本政府は、輸入に頼りきっている化学肥料を、国内資源でかつより環境安全性の高いたい肥に置き換えることを今後の方針として公言しており、それに伴い、化学肥料量を削減した農家には、高騰した化学肥料費の7割を支援するといった取り組みを行っている。
このような外的要因の発生により、農家が可変施肥を意識する必要性は、急速に高まってきているのだ。
可変施肥を扱った2つのシステム
このような背景の元、注目を集めているのが、『ザルビオ® フィールドマネージャー』と『KSAS』だ。
ザルビオ® フィールドマネージャー
『ザルビオ® フィールドマネージャー』とは、BASFとJA全農が共同して開発、導入を進める、農業分野における最適な栽培管理を提案・支援するシステムである。
衛星データを活用することで、作物の生育状況の見える化やAIを用いた病害/雑草の発生を予測、大規模で最適な栽培管理を可能としている。
人工衛星データを用いた地力マップ(その土地の農作物の生産量を推定したもの)を活用することにより、肥料コストが20%削減、稲の収穫量を15%高めることに成功しており、今、スマート農業の領域で注目を集めているシステムの1つだ。
KSAS
一方で、農機で有名なクボタは、ほ場情報や作業履歴、収穫実績、農機の稼働情報等を管理・閲覧できる営農・サービス支援システム『KSAS』を開発・提供。
KSAS対応農機と連携させることで、作業日誌の自動作成や、KSASで作成した可変施肥マップを用いた施肥作業等、こちらもザルビオ同様にスマート農業の領域で幅を利かせている。
連携の理由
ザルビオとKSAS、どちらとも作物の生育状況データや前年の収穫量マップ等を参考に可変施肥マップを作成することが可能である。
ただし、ザルビオの場合、衛星データを活用することで可変施肥マップの自動作成は可能だが、地力マップのデータをUSBに落としこんで農機に移す必要があり、時間と労力がかかっている。
一方、KSASの場合だと、USBを介さずに、対応農機にそのままデータを移行することが可能。
ただし、可変施肥マップは手動で作成しており、こちらも違った形で時間と労力を費やしていた。
今回の連携により、この双方の「手間」が改善され、可変施肥マップの自動作成から農機との自動連携が実現されるという。
加えて、農機の作業内容を自動でKSAS上の日誌に記録することや衛星データの活用により、KSASが可変施肥マップ作成時に参考とするデータが揃わない農地でも、可変施肥マップの作成が可能となった。
さいごに
いかがでしたか。
BASFによると、2023年度はザルビオ® フィールドマネージャーとKSASのシステム連携機能の開発、ユーザーの農地での可変施肥の実証試験に注力する予定だ。
実証試験にはユーザーによる機能や操作性の評価も追加で含めるという。
この三者間の連携により、可変施肥マップの自動作成から農機との連携までの効率化を促進し、より手間のかからないスマート農業の仕組みが構築されつつある。
本記事では、スマート農業による肥料コスト削減の仕組みついて紹介したが、実際、一次産業は、現場と研究者との考え方の相違から、産業のDX化が中々進まない領域である。
質の良い技術やシステムがあったとしても、導入されなければ意味がない。
一次産業のDX化を実現する上で、今回の事例のように「せざるを得ない状況下」に基づいた技術の導入が非常に重要になってくるだろう。