ASTRO GATE、気球でロケット打ち上げの安全確保へ!低コスト海域観測に挑戦

2025年2月3日、ロケットの離発着拠点となるスペースポート(宇宙港)の調査、企画、運営事業等に取り組むASTRO GATE株式会社が、福島県南相馬市にてロケット打ち上げ時における周辺海域への船の立ち入りを気球から観測する実証実験を実施したと発表した。

ロケットの打ち上げには、なぜ海域観測が必要なのか。 そしてなぜ「気球」が活用されたのか。本記事では、この実証実験の背景と意義や関わった企業の特徴、気球を使った観測のメリットについて解説する。

海域観測が必要な理由と気球のメリット

ロケットの打ち上げでは、安全のため、陸上およひ海上の広い範囲に警戒区域を設定し、人の立ち入りを制限する。というのも、多くのロケットは打ち上げ後にブースターやフェアリングなどの一部が海へ落下するため、その海域に船が立ち入った場合、落下物との衝突や事故のリスクが生じるのだ。

ゆえに、ロケットの飛行経路にあたる海域には「警戒区域」が設定され、打ち上げ時には船舶の立ち入りがないかをリアルタイムで観測する必要がある。

立入禁止区域内に船が侵入した場合、打ち上げの中止や延期に繋がる可能性がある。例えば、スペースワン株式会社が開発するカイロスロケット初号機では、船舶が侵入したため打ち上げが中止となり、4日後に延期となった。

そのため、船の立ち入りをリアルタイムで観測し、速やかに対応することが、安全・スムーズな打ち上げに不可欠なのである。

現状、海の立ち入り制限は水路通報を出すとともに、地上からのレーダーや、監視船を配備する等、打ち上げ時の海洋の安全を確認しており、多くのコストがかかっている。しかし、これらを気球から観測することで、より安価に、安全にロケットを打ち上げられる可能性があるのだ。

実証実験の概要

ASTRO GATEはより低コストで安全なロケット打ち上げの実現に向け、飛行船型HAPSを開発するSkySence合同会社、アドバルーンの制作を行う株式会社銀星アド社とともに気球による警戒区域観測の実証実験を行った。

参画企業

今回の実証実験に参画したASTRO GATE、SkySence概要・特長は以下の通りである。

世界初!複数港の企画運営「ASTRO GATE」

ASTRO GATEは、世界初となる複数のスペースポート(宇宙港/射場)の企画運営を主に手掛ける企業。

強みは以下の4つ。

  • コストパフォーマンス:複数のスペースポート運営を一社で担うことによる経済的な運営
  • 高度なスキル:複数のスペースポートでの経験を活かした質の高いサービス提供
  • 多様な打ち上げに対応:発射場所(地上/海上/空中)、ロケットエンジン(液体/固体/ハイブリッド)、方向(垂直/水平)など、あらゆるロケットタイプの打ち上げの実績
  • 豊富なコネクション:世界中の宇宙産業とのネットワークを活かした、円滑な企業誘致と多方面からの協力体制

これらの強みを活かし、同社はスペースポートとその周辺地域の開発を、ソフト・ハード両面からサポートしている。

福島県南相馬市では、2024年9月に宇宙関連事業の促進に向けて連携協定を締結。以降、気球から発射する衛星打ち上げロケットを開発するAstroX株式会社や、神奈川大学宇宙ロケット部/高野研究室のロケット発射実験のサポート等を実施している。

今回の実証実験では、実証にあたり必要となる各種調整・手続き、および調達業務を実施した。

飛行船型HAPSで地球を観測!「SkySence」

SkySenseは、飛行船型HAPS(高高度プラットフォーム:High-Altitude Platform Station)を日本全土に展開し、広範囲・リアルタイムで取得する高解像度の地球観測データの提供を目指す企業。

HAPSとは、地上約20km上空の成層圏を数日から数か月の長期間に渡って無着陸で飛行できる無人飛行体を指し、地上の通信インフラが届きにくい場所での通信やデータ伝送、地球観測などへの活用が期待されている。

SkySenceの飛行船型HAPSによる地球観測の強みは以下の3つ。

  • 超高解像度
  • 定点でのリアルタイム観測
  • 安価

飛行船型HAPSは衛星よりも高度が低く、カバー半径50~100㎞で高い解像度が期待でき、また地上に対して静止状態のため定点観測が可能。一方で、特定の地域内を自由に移動することもできる。また、製造・運用コストが低く、地上でのメンテナンスも可能なため、取得したデータを安価で提供できるのだ。

飛行船の技術に関しては、JAXAによる技術移転が決定している。

今回の実証では、銀星アド社とともに係留気球から海域内の漁船の撮影を実施した。

実証実験の流れと結果

実証実験は、KDDIの宇宙共創プログラム「MUGENLABO UNIVERSE」の支援を受けて実施された。このプログラムでは、宇宙技術を活用した地上課題の解決に向け、企業同士のマッチングや実証環境の提供が行われている。

今回の実証の目的は、ASTRO GATEが今後運営するスペースポート周辺において、ロケット打ち上げ時の立ち入り禁止海域への船舶侵入有無を確認し、安全なロケット打ち上げを実施するため、SkySenceが提供するHAPSソリューションを活用し、対象海域の観測を行うことである。

当日は、福島県の相馬双葉漁業協同組合の協力のもと漁船を出航し、ロープでつないだうえで空中に浮遊させた係留気球から立入禁止海域に見立てた海域内の漁船を撮影。

結果、海抜約500mに位置した係留気球から、漁船を高解像度で撮影することに成功した。

海抜約450mの係留気球から撮影した漁船
海抜約450mの係留気球から撮影した漁船 ©SkySence合同会社

実証実験により期待される効果

今回の実験では、係留気球を活用することで、広範囲の海域を高い解像度で観測することが可能であることが実証された。

この技術について、ASTRO GATEは今後、国内外のスペースポートでの安全確保はもちろんのこと、海難救助分野への応用を視野に入れて技術開発を進めていくという。

海難救助の分野では、航行中の船舶や沿岸からの目視に頼ることが多い遭難者の発見を、気球を活用することでより迅速かつ広範囲に行うことができる可能性があるのだ。

さらに、油流出事故などの海洋環境監視にも応用可能であり、単なる宇宙事業の枠を超え、海洋安全保障や環境保護といった幅広い領域での貢献も見込まれるだろう。

実証実験中の係留気球 
実証実験中の係留気球 ©ASTRO GATE株式会社

また、今回の実験では、単に技術開発が行われただけでなく、福島県があらゆる航空宇宙関連の研究開発に適した地理的条件や周辺住民の理解を有することが示された。

福島県は広大な空域を確保しやすく、人口密集地を避けた打ち上げが可能である点が強みとなる。また、震災後の復興支援の一環として、先端技術の導入に対する自治体の積極的な支援があることも、企業にとって魅力的な要素だ。

こうした環境は、ロケット開発だけでなく、ドローン、HAPS、自律型航空機などの分野の技術開発にも適しており、宇宙産業以外の新規産業の誘致にもつながる可能性がある。

ASTRO GATEはこのような活動を通して、安全かつ低コストなスペースポート運営を目指すとともに、周辺地域の発展にも貢献しているのだ。

さいごに

いかがでしたか。

ロケット打ち上げの成功は、打ち上げ時の海洋観測にもかかっている。 気球を活用した観測技術は、今後さらに発展し、スペースポート運営の新たなスタンダードとなる可能性もあるだろう。

ASTRO GATEは今後も、スペースポートの安全かつ低コストな運営の実現に向けて、様々な企業と連携し、スペースポート周辺環境の整備、各種ソリューションの提供に取り組んでいくとのことだ。

同社の働き方に興味のある方は、こちらをチェック

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参考

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