月のGPS技術を地球にも!?アークエッジが低軌道測位衛星システムの検討へ
©Space Connect株式会社

2024年10月17日、超小型衛星関連技術を活用した衛星開発サービスや衛星の量産化事業を展開する株式会社アークエッジ・スペースが、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)が実施する『低軌道測位衛星システム(LEO PNT)に関するFeasibility Study』の事業者として選定され、事業を開始することを発表した。

低軌道測位衛星システム(LEO PNT:Low Earth Orbit Positioning, Navigation, Timing)とは、従来よりも10倍以上地球に近い場所を周回する測位衛星を開発することで、高強度、高精度の測位情報をグローバルに提供することが期待されるシステムである。

本記事では、この低軌道測位システムの事業内容と、事業のフィージビリティスタディを行ううえでのアークエッジ・スペースの強みについて調査した。

従来の測位衛星と低軌道測位衛星のシステム

従来の測位衛星システム

現在の測位衛星システムには、アメリカのGPS、ロシアのGLONASS、欧州のGalileoなど、地球全体をカバーするGNSS(Global Navigation Satellite System)と呼ばれるシステムや、日本の「みちびき」など、特定の地域のみをカバーするRNSS(Regional Navigation Satellite System)と呼ばれるシステムがある。

これらの測位衛星は高度20,000km付近(みちびきは約36,000㎞)の軌道を周回し、測位に必要な軌道上の正確な位置と精密な時刻情報を地上に提供。

地上のアンテナが計4機の衛星からの信号を受信できれば、各信号について到達時間からアンテナと衛星の距離を計算することで、4本の距離が交わる点としてアンテナの詳細な位置情報を取得できるのだ。

しかし、従来のGNSSやRNSSは地球表面に到達する信号強度が弱く、他の電磁波による干渉などの影響を受けやすいため、精度や安定性に課題がある。また、ジャミング(妨害)やスプーフィング(電波のなりすまし)といった脅威も顕在化してきており、より安全で強力な測位システムの必要性が高まっている。

測位衛星システムの概要
測位衛星システムの概要 ©Space Connect

低軌道測位衛星システムの特徴や必要性

今回アークエッジ・スペースがフィージビリティスタディを開始した低軌道測位衛星システム(LEO PNT)は、GNSSに対する補完システムとして期待される。このシステムは高度約900~1,200kmの低軌道に配置される数百機の小型衛星コンステレーションによって構成される予定で、以下のような特徴がある。

  1. 高強度:従来のGNSSよりも低い高度に位置するため、信号強度が強く、ジャミングや障害物の影響を受けにくい。そのため、より確実な測位情報の利用が期待される。
  2. 高精度:衛星が地球に近いため、測位結果を得るために必要な時間も短く、高精度の測位精度が可能となる。
  3. グローバル展開::低軌道の衛星は地球全体をカバーすることができ、新たな測位サービスをグローバルに展開することが可能となる。

この技術は、車の自動運転や自動農業、防衛用途など、高度な精度を必要とする多くの分野での活用に期待できる。また、衛星の低軌道配置により通信の遅延が減少し、よりリアルタイムでの位置情報提供も可能となるだろう。

GNSSとLEO PNT
GNSSとLEO PNT ©株式会社アークエッジ・スペース

低軌道測位衛星システムのフィージビリティスタディ

低軌道測位衛星システムの事業概要

今回、アークエッジ・スペースが選定されたJAXAのフィージビリティスタディでは、2024年10月から2025年3月までの期間に以下のような事項が検討される。

  • どのように衛星コンステレーションを構築すれば、最適な低軌道測位システムを開発可能であるかの評価
  • GNSS衛星からの信号を受信して衛星自身が自分の位置を計算し、測位信号として発信できるかの評価
  • 測位信号の信号形式や使用する電波の種類に関する評価
  •  実証ミッションの概念設計(ミッションコンセプトの提案、衛星設計、軌道設計、衛星機数の評価等)

アークエッジ・スペースの強み

アークエッジ・スペースは、これまでの豊富な経験や最先端の技術を活かして今回の事業に取り組んでおり、特に以下の点が強みとして挙げられるだろう。

月近傍における測位・通信の研究開発経験

アークエッジ・スペースはJAXAと共同で、月面での測位・通信システムの開発にも取り組んでいる。その技術が一部、今回の低軌道測位衛星システムにおいても使用されるのだ。

現在、アルテミス計画を始めとする月面活動の活発化に伴い、月面におけるローバー走行や基地建設などの活動に必要な月通信・測位の国際フレームワークである『LunaNet』の検討がNASA・ESA・JAXAで進められている。

日本は、この月版GNSSを構成する1つとなる「月測位衛星システム(LNSS)」の開発を進めており、『LunaNet』で標準化される測位信号を欧米の測位衛星と共に月面に向けて配信する計画である。

その際、LNSS衛星自身の位置及び時刻の決定も必要であり、この方法として、現在は月近傍まで届いたGNSSの漏れ電波を用いて衛星自身が位置と時刻を計算する方向で検討が進められている。                  

月測位システム(LNSS)実証ミッションの概念図
月測位システム(LNSS)実証ミッションの概念図 ©アークエッジ・スペース

すなわち、LNSSと低軌道測位衛星システムは、「GNSSの信号をもとに衛星自身が自分の位置や時刻を決定し、その情報を元に測位信号を発信する」という点で共通の技術を用いる。

アークエッジ・スペースは、このような先行する関連事業で得られた先進的な技術や知見を活用し、低軌道測位衛星システムに係る取り組みを着実に推進するとしている。

幅広い分野、量産化・多数機運用の知見

次に、アークエッジ・スペースはIoTデータ収集、海洋通信、測位・位置情報、衛星リモートセンシング、月インフラ、深宇宙探査など、幅広い用途での開発・運用実績があり、これらで得た技術や経験も同社の強みだろう。

測位衛星システムを低軌道衛星コンステレーションによって実現するならば、小型衛星の挙動や運用に関する課題を理解し、適切な設計を行うことが重要となる。

これまでに同社は、例えば、光通信モジュールを搭載した低軌道小型衛星を活用した衛星ーHAPS間、衛星ー衛星間(低軌道衛星ー静止軌道衛星間)等における光通信の開発・実証を通じて、非地上系ネットワーク(NTN)におけるフィーダリンク/バックホール回線の実用化や、リモートセンシング・海上通信(VDES)衛星などへの光通信モジュール実装に向けた取り組みを進めている。

アークエッジ・スペースがIHI、LocationMindとともに取り組む船舶向け通信衛星コンステレーション
アークエッジ・スペースがIHI、LocationMindとともに取り組む船舶向け通信衛星コンステレーション ©株式会社アークエッジ・スペース

また、衛星を運用するために必要な信号の宇宙に向けた送信や、衛星から地上に送信されてくるデータを受信・処理するためのアンテナを有する地上局を自社で整備しており、自社開発の衛星管制に加えて、他社の衛星開発・実証等に地上局サービスも提供。

さらに、アークエッジ・スペースでは、小型衛星コンステレーションの企画・設計から量産化、運用まで総合的なサービスを展開。衛星の設計から、組み上げ、統合試験までの生産工程の各所においてデジタル化を推し進めており、効率的な衛星量産体制を実現している。

以上のように、衛星開発において通信をはじめとした様々な分野の経験や、衛星の量産化、多数機運用の知見は、小型衛星コンステレーションで測位衛星システムを構築する場合にも役立つだろう。

アークエッジ・スペース牧之原地上局
アークエッジ・スペース牧之原地上局 ©株式会社アークエッジ・スペース

さいごに

いかがでしたか。アークエッジ・スペースは地球観測だけでなく、通信や測位など様々な分野で活躍しており、その技術力をもって未来の高度自動化社会に貢献しようとしている。

低軌道衛星測位システムについては、まだ実現可能性の調査段階であるが、今後の進展が非常に期待される。

低軌道測位衛星システムがどのように私たちの生活を変えていくのか、引き続き注目していきたい。

参考

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