2023年9月7日、H2Aロケット47号機の打上げが行われ、無事成功を果たした。
このロケットにより、月面探査機「SLIM」と宇宙の謎を解き明かすための衛星「XRISM」の2つが宇宙に打ち上げられたが、これらは一体どのようなものなのだろうか。
本記事では、月面探査機「SLIM」と衛星「XRISM」について簡単に紹介する。
目次
SLIMとは
SLIM(スリム)は、日本初となる月面着陸を目指す、小型月着陸実証機である。
SLIMの目的
月面探査機「SLIM」の主な目的は、月着陸機の技術実証と探査機システムの実現である。
探査機システムでは、月内部にあるマントルの成分が、地球のマントルと似たものであるのかを調査、月がジャイアントインパクト[*]により形成されたものかの解明を目指す。
マントルの成分は、隕石衝突により形成されたクレーターの内部や周辺にある岩の中にある、カンラン石に含まれると考えられている。
SLIMはカンラン石の成分を調べることでマントルの成分を推定し、月の起源を探るのだ。
[*]ジャイアントインパクト:地球が形成された約45億年前に、地球とほぼ同じ大きさの天体「テイア」と呼ばれる惑星が衝突したことにより、月が形成されたとする説。この衝突により、地球の一部が宇宙空間に飛び散り、それらが集まって月ができたとされている。
SLIMの特徴
ポイントとなるSLIMの特徴は以下の3つ。
精度10倍のピンポイント着陸
従来の月面着陸では、周囲にクレーターの少ない平らな場所に、数キロメートル未満の精度での着陸が一般的であった。しかしSLIMが挑戦するのは、カンラン石が存在する周りに岩が多いクレーター近くの15度の斜面である。
そのため、求められるのは従来よりも高精度な月面ピンポイント着陸。
SLIMでは、月表面の画像を撮影してクレーターを認識し、メモリにあらかじめ内蔵された月面の地図と照合することで自身の位置を高精度で判断することが可能。
そうすることで、周辺の障害物も検知しながら、狙った場所に精度100m以内での着陸を可能としているのだ。これは従来の着陸精度と比較しても10倍以上の性能を誇っている。
超軽量設計
SLIMは高さ2.4m、重さ210㎏という人間より少し大きいくらいのサイズ。
これは従来の月面着陸機に比べて非常に軽量である。例えば、先月月の南極に着陸したインドのチャンドラヤーン3号は1750㎏の重量があった。
[関連:インドの歴史的快挙、世界初の月の南極着陸の目的とは]軽量化により、従来との月面探査機の重さとの差分を観測装置や分析機器に配分できるため、将来的に重い機器を使用するミッションにも柔軟に対応することが期待できる。
着陸方法が画期的
最後にSLIMの着陸方法だが、従来のものと比較して、いくつか際立った点がある。
まず、着陸時の衝撃の吸収方法である。アポロなど従来の月面着陸機では、関節をもつ脚で衝撃を吸収し、着陸するのが基本であった。しかし、この方法では着地する面積部分が大きくなり、結果として機体の重量が増加するという課題があった。
SLIMでは、着地部分の金属を3Dプリントで半球形のスポンジ状に出力して作成。着陸時にスポンジ状の構造が潰れることで、衝撃を効果的に吸収することを特徴の1つとしている。
また、着陸方式に関しても、斜面に着陸できるようにするためにあえて倒れこむように着地させる「二段階着陸方式」を採用。
着陸直前に機体を傾けて、最初に1本の主脚が接地、その後、斜面に沿って倒れ込むようにして残りの脚が接地する仕組みだ。
わざと転ぶことで難易度を下げるという、ユニークな着地方法を活用しているのがSLIMの面白いところである。
XRISMについて
もう1つ、XRISM(クリズム)は、NASAやESA(欧州宇宙機関)と連携して開発したX線分光装置。一言でいうと宇宙の天文台である。
X線分光装置とは、物質の放つエネルギー(X線:電磁波の一種)を分析することで、温度や種類、動きの速度など、その物質の性質を調べることができる装置だ。
XRISMが挑戦する3つの宇宙の謎
XRISMが解き明かす謎は、以下の3つ。
- 宇宙の銀河団はどのようにできたのか
- 宇宙の元素はどのように作られてきたのか
- ブラックホールの周りでは何が起きているのか
これらは、銀河団の中や周りに満ちて、絶えず流動している高温プラズマ(高いエネルギーを持つ電子や陽子、原子核が混在したもの)が放出するエネルギーから、その分布や種類、温度、速度、動きなどを分析することで解き明かすことができる。
XRISMがX線の持つエネルギーの大きさを測定する仕組み
では、どのように高温プラズマが放出するX線のエネルギー量(X線の周波数)を測定するのだろうか。
光が当たるとものが温かくなるのと同様に、物質がX線を吸収すると、X線が持っていたエネルギーが熱に変わる。XRISMはこの温度変化を計測することで、X線のエネルギーの量を測定。
ごくわずかな温度上昇まで検知できるため、従来の装置よりもエネルギーを非常に細かく測定することが可能となっている。
これにより、星や銀河、銀河の集団がつくる大規模構造の成り立ちをさらなる解像度で明らかにしていく予定だ。
さいごに
いかがでしたか。
SLIMは月面着陸装置、XRISMは宇宙の天文台と覚えてもらえれば問題ないです。
今回打ち上がったSLIMは今後、3~4カ月をかけて、月周回軌道に到着、1ヶ月間、月を周回した後に月面の着陸を目指す予定だ。
SLIM、XRISMの今後の動向に注目だ。