皆さんは、『ロックーン方式』と呼ばれるロケットの打上げ方法をご存知だろうか。
ロケットに携わった人であれば、恐らく一度は聞いたことがある言葉だが、その難易度の高さから忌避され続けてきた言葉である。
そんな中、昨年、民間のとあるスタートアップがモデルロケットの空中発射実験を成功させた。といった内容を見て、数多のプレイヤーから注目を集めたのは、記憶に新しい。
本記事では、『ロックーン方式』を知らないユーザーに向けてわかりやすく記事を執筆。
同方法で衛星軌道投入を行うメリット並びに可能性について言及しようと思う。
『ロックーン方式』とは
ロケット打上げに際して展開する『ロックーン方式』とは、一体どのようなものなのだろうか。
そもそも、ロックーン(Rockoon)という名称は、ロケット(Rocket)と気球(Baloon)を組み合わせた造語である。
その名前の由来の通り、気球によってロケットを成層圏まで放球した後、空中で点火し発射する打ち上げ方式のことだ。
そんなことをする必要があるのかと思うかもしれないが、実は、成層圏からロケットを発射することで4つのメリットを享受することができる。
- 発射場などの地上設備が不要となり、打ち上げコストが低減
- 成層圏は天候が安定しているため、打ち上げが地上の天候に左右されない
- 打ち上げ場所を選択し、任意の軌道に直接投入可能
- 空気抵抗が少ないため、より少ないエネルギーで目標地点まで到達可能
このように圧倒的なメリットがある『ロックーン方式』だが、すでに代替手段として、気球ではなく、飛行機を使用する方法も存在している。
Virgin Orbit社が運用するLAUNCHERONE(ランチャーワン)がその代表例だ。
一方、気球を利用したロックーン方式では、小型の観測ロケットが打ち上げられた実績はあるものの、いまだ衛星の打ち上げに成功した事例はない。
しかしながら、裏を返せば、その高難易度のハードルを超えてしまえば、まさにブルーオーシャン。
気球は飛行機よりも圧倒的に安い上、より高い高度までロケットを運ぶことが可能である。
それこそ、飛行機は高くても高度15㎞が限界だが、気球なら20km以上まで到達できるからだ。
『ロックーン方式』による衛星打ち上げが成功すれば、より少ない燃料・低コストで、小型衛星を目的の軌道に直接投入できるようになるのである。
世界初となったモデルロケット空中発射実験
そんな中、昨年の2022年12月22日、AstroX株式会社は、同月10日に、山口県にて姿勢制御(水平方向の角度)を用いた気球からのモデルロケット空中発射実験を実施し、成功したと発表した。
AstroXは、昨年5月に立ち上がった『ロックーン方式』にて、高頻度・低価格での衛星軌道投入を試みるロケット開発・運用会社である。
昨年行われた実験の目的は、放球中の非係留気球(ロープで地上から固定されていない気球)にて、水平方向の姿勢制御を行い、ロケットを空中発射可能かどうかの確認であった。
吊り条件などを変え、3機の打ち上げが実施された結果、いずれも成功。
姿勢制御を行った上で、ロケットを空中発射させることが可能であることが証明された。そもそも気球のような、それ自体が固定されていないものだと、水平方向の姿勢制御が非常に難しい。
理由としては、
- 水平方向の回転を加えた際、気球自体が回転してしまう
- 任意の方向に回転させた際、慣性で回り続けてしまうため静止が難しい
この2点が挙げられる。
これまで気球からロケットを発射した例はいくつかあるが、いずれも姿勢制御装置が付いていなかった。
また、千葉工業大学が姿勢制御装置を開発し、2020年に、姿勢制御装置を用いたロケット発射に実験を行い、成功したが、使用されたのは気球ではなくクレーン車であった。
今回、姿勢制御を用いた気球からのロケットの空中発射成功はまさに世界初である。
同社は今後、実験で得られた結果をもとに気球とロケットの大型化、高高度化を図るという。
それこそ、大型化を図る際には、重量が変わってくるため、それにあった姿勢制御が必要となる。
また、最終的には可能な限り軽量化する必要があるため、全体の軽量化を行うことも課題になるだろう。
AstroX代表取締役CEOの小田翔武氏は、以下のようにコメントしている。
今回の実験は、AstroXとしての大きな一歩となったので、これからも着実にかつ迅速に一歩一歩進んでいきたい。
さいごに
いかがでしたか。
AstroXは、『ロックーン方式』での高頻度・低価格での打ち上げを実現するべく、日々、研究開発・サービス展開に取り組んでいる。
その背景には、日本の「ロケット不足」という課題がある。
宇宙産業の急速な発展に伴い、人工衛星の需要が大きく伸びており、それに伴い小型衛星の打ち上げ需要も急増している。
しかし現在、日本国内では衛星を宇宙に運ぶロケットが不足。それこそ国内の小型衛星のほぼ100%は海外ロケットで打ち上げている状況である。
海外で打ち上げる場合、輸送費用など、衛星事業者への負担が大きくかかってきてしまうため、この打ち上げ能力不足が日本の宇宙開発の大きな課題となっているのだ。
気球を用いて打ち上げを行う場合、全体の重量やロケットの大きさに制限がかかってしまい、衛星も小型化する必要がある。
しかし、人工衛星の小型化が進む昨今においては、小型衛星を国内で打ち上げたいという課題を直接解決可能な有効な手段となる。
AstroXが早期に衛星の打上げを実現すれば、国内のロケット事業でも極めて優位な地位を築けるのではないだろうか。
参考: