
2026年10月22日、宇宙空間での電力インフラ構築を目指すZero Industries, PBC(以下、Zero Industries)は、プレシードラウンドにおいて300万米ドル(約4.7億円)の資金調達を完了したと発表した。
本記事では、資金調達の概要や同社の事業内容、今後の開発計画について整理する。
Zero Industries、約4.7億円の資金調達を発表
Zero Industriesとは
Zero Industriesは、米国カリフォルニア州サンフランシスコに本拠地を置き、日本法人も展開する宇宙スタートアップ企業である。日本法人として、Zero Industries Japan株式会社を展開している。
同社は、人類が利用できるエネルギーの拡大を目指し、宇宙空間における電力インフラの構築に取り組んでいる。
最初の事業として開発を進めているのが、宇宙で発電した電力をレーザーによって人工衛星へ供給するサービス「Helios」である。将来的には、宇宙データセンターや月面拠点などへの電力供給に加え、宇宙資源を活用した発電・製造設備の構築も構想している。

前澤ファンドなどが出資
Zero Industriesは、今回、事業の初期段階で実施する「プレシードラウンド」において、300万米ドル(約4.7億円)の資金調達を完了した。
資金調達では、前澤ファンドが中心となって出資を行い、UntroD Capital Japan、NOW、Midtown、個人投資家らが参加。
日本においてスタートアップが公表したプレシード調達の主要事例を対象とする、2026年10月9日時点の同社調査では今回の調達額は比較対象の中で最高額となるという。
16歳のCEOを中心とする経営チーム
Zero Industriesの経営を担うのは、創業者兼最高経営責任者(CEO)の杉原海氏(16歳)、共同創業者兼最高技術責任者(CTO)の藤井佑成氏(19歳)、共同創業者兼最高執行責任者(COO)の谷昊埜氏(20歳)である。
杉原氏は、幼少期からものづくりに関心を持ち、ウェブサービスやAI関連事業など、7社の創業・運営に携わってきた。藤井氏は東京大学工学部に推薦で入学し、Zero Industriesではレーザー技術や制御システムなどの技術開発を統括する。谷氏は財務や市場開拓、組織運営などを担当している。
また、アドバイザーには三菱重工業やJAXA、スカパーJSATなどでの勤務経験を持つ専門家が参画。宇宙開発や無線電力伝送、法律・政策などの知見を生かし、同社の事業を支援している。

衛星向けレーザー送電サービス「Helios」を開発
宇宙で発電した電力をレーザーで衛星へ供給
Zero Industriesが最初の事業として開発を進めるのが、衛星向けレーザー送電サービス「Helios」である。
同事業では、宇宙空間で太陽光から発電し、その電力をレーザーによって軌道上の離れた場所にある人工衛星へ供給する。
システムは、主に次の3つで構成される。
| 名称 | 役割 |
|---|---|
| Helios Beam | 宇宙で太陽光発電し、レーザーによって電力を送る衛星 |
| Helios Cell | 顧客の衛星に搭載し、レーザーを電力に変換する受電装置 |
| Helios Grid | 送電を管理する運用システム |
送電衛星「Helios Beam」は、軌道上で発電した電力をレーザー光に変換して送信する。受電側の衛星は「Helios Cell」でレーザー光を受け取り、再び電力へ変換して利用する。
「Helios Grid」は、衛星の位置関係や発電量、顧客の電力需要に基づいて送電を管理する。また、供給した電力量を計測し、異常を検知した場合には送電を弱めるか停止する設計となっている。
数百km離れた衛星への送電や、1機の送電衛星から複数の衛星への同時送電ができることを設計上の目標とし、開発を進めている。

外部からの電力供給で、衛星の軽量化に貢献
Heliosによって外部から電力を供給できれば、人工衛星に搭載する太陽電池パネルや蓄電池を小型・軽量化し、その分の重量を観測機器や計算機、推進装置などに配分できる可能性がある。
現在、多くの人工衛星は機体に搭載した太陽電池パネルで発電し、蓄電池に電力を蓄えている。地球の影に入る時間帯は太陽光による発電ができないため、その間に必要な電力を確保する蓄電池も必要となる。
こうした発電設備や蓄電池は衛星の重量の一部を占めており、搭載できる観測機器などの重量にも制約が生じる。
Heliosは、外部から電力を供給することで、こうした制約の緩和を目指している。
一方、実用化には、離れた衛星へレーザーを正確に照射する技術や、送受電時のエネルギー損失を抑える技術が求められる。
Zero Industriesは、技術的な実現可能性に加え、外部から電力を供給する方式が、衛星自身で発電する従来の方式と比べて経済的に成立するかについても検証する方針である。

光産業創成大学院大学と共同研究、2030年の宇宙実証へ
レーザー送電技術の地上実証を推進
Zero Industriesは、静岡県浜松市の光産業創成大学院大学(GPI)にある藤田和久研究室と、衛星向けレーザー無線電力伝送の共同研究を進めている。
藤田和久教授は、レーザー工学や宇宙工学を専門とし、JAXAなどの研究機関と宇宙太陽光発電における送電・受電に関する研究にも取り組んできた。
共同研究では、以下の3つのテーマに取り組んでいる。
- 顧客の衛星に取り付ける受電モジュールの中核となる受電素子を実際の使用条件で評価し、受電側の設計値を固めること
- km級の距離で行う屋外送電実証に向けた、大気中のレーザー伝送の評価と、高出力レーザーを安全に扱う運用手順の整備
- レーザー受電の性能を共通の方法で測る評価手法の整理
これまでには、受電素子の評価に使用する実験系と、高出力レーザー実験の安全計画について藤田研究室によるレビューを受け、設計に反映しているという。
2030年に衛星間送電の実証を計画
Zero Industriesは、2026年秋から2027年春にかけて地上実証を行い、2030年には宇宙空間で衛星間送電を実証する計画である。
今後の主な開発計画は以下の通り。
| 時期 | 主な計画 |
|---|---|
| 2026年秋~2027年春 | 受電素子の評価、屋外でのkm級送電実証、複数のレーザーを合成して移動目標を追尾する試験 |
| 2027年後半 | 軌道実証機の設計、衛星バスの選定、レーザー系の宇宙環境への適合試験開始 |
| 2030年 | 初号機による衛星間レーザー送電の実証 |
| 2030年の実証以降 | 実証結果を踏まえた商用送電衛星の投入、顧客への電力供給開始 |
2030年の実証では、衛星間の距離を段階的に延ばしながら、送電・受電・電力量の計測・運用管理を一体で検証。
その結果を踏まえて商用衛星の投入を進め、複数の送電衛星を運用する体制の構築や、供給電力の拡大を目指す。
なお、開発工程や投資配分については、今後の実証結果や事業性などに応じて見直す方針だ。
宇宙データセンターや月面拠点への電力供給も構想
宇宙データセンターの電力インフラを目指す
Zero Industriesは、Heliosの初期顧客として、地球観測衛星、軌道間輸送機、衛星の点検・修理を行うサービス機などを想定している。
将来的には、宇宙データセンターや軌道上の工場、月面拠点などへ供給対象を拡大する構想である。
宇宙データセンターは、宇宙空間に計算設備やデータ保存設備を設置し、データ処理などを行う施設である。こうした設備の運用には、継続的な電力供給が欠かせない。
Heliosによって発電設備と計算設備を分離できれば、それぞれの設備を用途に応じて設計・増設し、必要な電力を外部から供給する仕組みを構築できる可能性がある。
Zero Industriesは、発電設備の建設や送電の管理を担うことで、宇宙データセンター事業者が計算設備の開発・運用に集中できる環境の実現を目指している。

長期的には宇宙規模の発電網構築を目標に
同社は、さらに長期的な構想として、宇宙から地球への電力供給や、月・小惑星の資源を利用した発電・製造設備の建設も掲げている。
具体的には、2035年までに地球上での発電を不要にすることや、2150年までに太陽の周囲へ多数の発電設備を配置する「ダイソンスウォーム」を完成させることを目標としている。
これらは長期的な構想であり、実現には技術面・事業面で多くの課題が残る。Zero Industriesはまず、Heliosの地上実証と2030年に予定する衛星間送電実証を通じて、技術的な実現可能性や経済性を検証していく方針である。


さいごに
今回、約4.7億円を調達したZero Industriesは、人工衛星が必要な電力を外部から調達できる仕組みの実現を目指している。
衛星へのレーザー送電が実用化されれば、人工衛星の設計や運用の自由度を高め、宇宙データセンターなど新たな宇宙利用を支える技術となる可能性がある。
株式会社前澤ファンドは、同社に対して以下のように期待を寄せている。
ダイソン球への道を切り拓き、人類のエネルギー問題を解決する。Zero Industriesが目指すのはその未来です。宇宙での電力供給は、そこへ至る第一歩と捉えています。
初めてお会いしてから今日までの成長の速さと、学んだことを行動に移す力を高く評価し、今回リード投資家として出資いたしました。彼らの挑戦が人類の未来をどう変えていくのか、大きな期待を寄せています。構想の実現を一日も早く近づけるために、私たちも長期的な視点で支えてまいります。
今後は、光産業創成大学院大学との共同研究による地上実証の成果と、2030年に計画する衛星間送電実証の進展が注目される。
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