千葉大学が示した気象衛星ひまわりの可能性 ―熱帯雨林観測の新解析手法
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2026年1月15日、国立大学法人千葉大学は、同大学環境リモートセンシング研究センターの研究グループが、気象衛星「ひまわり」の観測データを用い、熱帯雨林を高い精度でモニタリングできる新解析手法を実証したことを発表した。

本成果は、従来は気象観測が主用途とされてきた「ひまわり」のデータが、森林の状態把握や炭素循環といった環境分野の解析にも応用可能であることを示唆するものである。

本記事では、気象衛星ひまわりが現在どのような観測能力を持ち、今回の研究によって何が明らかになったのかを整理する。

気象衛星ひまわりの現在地 ―いま何ができるのか

「ひまわり」は、日本が運用する静止気象衛星のシリーズである。1977年の初号機から複数世代にわたる衛星が打ち上げられている。現在は最新世代として、2014年に打ち上げられた「ひまわり8号」と2016年に打ち上げられた「ひまわり9号」が運用されている。

ひまわり8号・9号は、赤道上空約3万6千kmの静止軌道から地球上の同じ範囲を継続的に観測しており、約10分間隔という高い時間分解能で、広い範囲を同時に捉えることが可能。可視光や赤外線など複数の波長帯を用いた光学観測により、雲の分布や動き、雲頂温度、水蒸気量、地表面温度といった情報を高頻度で取得してきた。

その一方で、近年では地表環境の変化を長期的にモニタリングする用途としても注目が集まりつつある。

一般的な光学衛星は同じ地点を観測できる頻度が限られるため、雲に遮られると有効なデータを取得しにくいが、ひまわりは高頻度の定点観測という強みを活かすことで雲の多い熱帯地域でも観測機会を確保できる。これにより、森林や植生の変化を捉える手段としての可能性が指摘されている。

静止気象衛星ひまわり8号・9号のイラスト
ひまわり8号・9号のイラスト(出典:気象庁ウェブサイト)

気象衛星ひまわりによる観測精度を高める新手法

熱帯雨林観測の重要性と課題

東南アジアの熱帯雨林は、広大な森林面積と高い生産性を背景に、地球規模の炭素循環を支える重要な生態系である。熱帯林は光合成などを通じて大気中の二酸化炭素を取り込み、炭素と水蒸気の循環に影響を与えることが知られている。

しかし近年、エルニーニョ現象[※1]の発生に伴う降水量の変動や高温化に加え、森林減少が進行。こうした要因が重なることで、森林の二酸化炭素吸収量が年ごとに大きく変化する可能性がある。そのため、植生活動の変化を手がかりに、二酸化炭素吸収の動向を継続的に把握することが、地球規模の気候変動を理解する上で重要だ。

こうした中、ひまわり8号・9号は約10分間隔という高頻度観測が可能であるため、熱帯地域における植生モニタリング手段として期待されてきた。

しかし、課題もある。衛星から地表を見る角度は地点ごとに異なる角度で固定されている一方、地表を照らす太陽の角度は時間や季節によって変化する。このため、衛星・地表・太陽の位置関係の違いによって観測条件にばらつきが生じ、植生活動の変動を正確に捉えることが難しい

[※1]エルニーニョ現象:太平洋赤道域の海面水温が平年より高くなる状態が数か月から1年以上続く現象。海と大気の状態が変化することで、東南アジアでは降水量の減少や高温化が起こりやすくなる。

観測の「角度」を揃えて植生モニタリングを高精度化

千葉大学の研究グループは、ひまわり8号・9号の観測データに最適化した新たな観測条件として、「S-CSA(空間的統一散乱角)」を考案した。S-CSAとは、太陽から地表に入射する光の向きと、地表から衛星へ向かう光の向きの間の角度(散乱角、下図左)を、空間的に一定に保つという考え方である。

この条件が満たされる場合、衛星は常に「太陽の入射方向に対して同じ角度から地表を見ている」状態となる。研究グループは、東南アジア全域において、衛星・地表・太陽の相対的な位置関係がこの条件を満たす観測タイミングが、年間を通じて存在することを見いだした。

本研究では、S-CSA条件を満たす観測データを選択して解析する手法と、異なる複数の観測条件に基づく解析結果を比較・評価。その結果、以下の2点が明らかになった。

  1. S-CSA条件のもとで算出した植生指数[*2]が地上で観測された光合成による二酸化炭素吸収量と最も高い相関を示し、季節変動をより正確に捉えた点
  2. 地域ごとに生じていた植生指数の偏りやデータ上に現れる不自然な空間パターンが抑制され、空間的に一貫した植生モニタリングが可能になった点

これにより、東南アジアの広域にわたって、高頻度かつバイアスの少ない植生モニタリングが可能になることが示された。

[※2]植生指数:植物が赤い光を吸収し、近赤外光を強く反射する性質を利用して、植物の葉の量や光合成活動の活発さを表した指標。

新手法(S-CSA)による観測幾何条件の違いの補正と植生指数データの安定化効果
新手法(S-CSA)による観測幾何条件の違いの補正と植生指数データの安定化効果 ©国立大学法人千葉大学

さいごに

今回考案されたS-CSAは、ひまわり8号・9号で問題となっていた、観測する角度の違いによって生じる見え方のばらつきを抑える手法である。これにより、気象衛星を用いた植生活動の把握において、場所や時期による影響を受けにくい、安定した解析が可能になることが示された。

また、この手法は中国のFY-4A、韓国のGK-2A、米国のGOES-16など、他国が運用する静止気象衛星にも応用できる汎用性を持つ。研究グループは今後、アマゾンや中央アフリカといった他の熱帯地域への展開も視野に入れている。

こうした手法によって得られる信頼性の高い観測データは、森林減少や劣化に伴う温室効果ガス排出の把握をはじめ、国際的な炭素監視や森林管理の取り組みを支える基盤情報となることが期待される。静止気象衛星の定点観測という特性を活かした環境モニタリングは、今後の持続可能な環境政策を支える一つの手段となり得るだろう。

参考

静止気象衛星「ひまわり」で熱帯雨林での“健康診断”—新手法で精度の高い観測が可能に—(国立大学法人千葉大学, 2026-01-19閲覧)

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