アストロスケール、デブリ観測衛星をインドから打ち上げ
©Space Connect

2025年9月11日、株式会社アストロスケールは、インド政府宇宙庁(ISRO)傘下の国営企業 NewSpace India Limited(NSIL)と打上げ契約を締結した。
本契約により、大型衛星デブリの接近・観測を目的とする衛星「ISSA-J1(In-situ Space Situational Awareness – Japan 1)」が、2027年春にインドから打ち上げられる予定である。

本記事では、アストロスケールが挑む新たなミッションの概要と、打上げパートナーとしてインドを選択した背景について整理する。

アストロスケールについて

アストロスケールは「宇宙ごみ問題の解決」を掲げ、軌道上サービス事業を展開する宇宙スタートアップである。

本社・R&D拠点を日本に置きつつ、英国、米国、フランス、イスラエルへと事業を拡大。衛星の寿命延長、故障機や物体の観測・点検、運用終了時のデブリ化防止、既存デブリの除去など、多様なサービスの開発に取り組んでいる。

2021年の「ELSA-d」では模擬デブリを用いた除去技術の検証に成功し、さらに「ADRAS-J」では挙動が不明な実デブリへの接近観測を実施。これらを通じて、軌道上でのランデブ・近接運用(RPO)技術を世界に先駆けて実証し、軌道上サービス分野のリーダーとして地位を確立した。

また、JAXA、米国宇宙軍、欧州宇宙機関(ESA)、英国宇宙庁(UKSA)、Eutelsat OneWebといった主要プレイヤーとの協業を重ね、国際的な存在感を高めている。

「ISSA-J1」ミッション概要

ISSA-J1は、文部科学省「中小企業イノベーション創出推進事業(SBIRフェーズ3基金事業)」の一環として進められている実際の大型衛星デブリ2機を対象に、接近および近傍での撮像・診断を行うミッションである。

運用終了した衛星デブリは、外形や寸法などの情報が乏しいうえ、位置データの提供や姿勢制御の協力も得られない。そのため、劣化状況や回転レートを把握しつつ、安全かつ確実にランデブ・近傍運用(RPO)を実施する技術は、デブリ除去を含む軌道上サービスの前提条件となる。

2024年に開始された「ADRAS-J」では、使用済みロケット上段を対象にRPO技術の実証が行われた。

一方、ISSA-J1は大型衛星デブリを対象とすることで、より高難度なシナリオに挑み、軌道上サービスの実現に向けた技術的信頼性と実績をさらに高める狙いがある。

現在、設計の最終段階にあり、運用準備やフライト品コンポーネントの製作が始まっている。今後は衛星システムの組み立てと試験を経て、2027年春にNSILの「PSLV(Polar Satellite Launch Vehicle)」で、インド東部のサティシュ・ダワン宇宙センターから打ち上げられる予定だ。

ADRAS-Jミッションのイメージ画像
ADRAS-Jミッションのイメージ画像(アストロスケールのPRTIMESより引用)

NSILと契約締結した背景

アストロスケールは、約1年にわたり10社以上の打上げ事業者を技術力・実績・価格面から比較検討した結果、NSILを打上げパートナーに選定した。

NSILとPSLVロケット

NSILはインド政府・インド宇宙研究機関(ISRO)の商用宇宙事業の窓口として活動し、PSLVロケットの製造、組立、統合を担っている。

PSLVはインドの第3世代ロケットであり、信頼性と汎用性を兼ね備えた主力機だ。1993年の初打上げ以来、60回以上の成功を重ね、成功率は95%超に達している。

世界的にも有数の低軌道打上げ機であり、日本企業による専用打上げの調達は今回が初めてとなる。

インド市場での影響力拡大意義

今回の契約は、ISSA-J1ミッションの打上げ手段を確保するだけでなく、アストロスケールがインド市場での事業展開を強化する一手と位置づけられている。

インドの宇宙産業は、スタートアップ企業の活動が活発化し、民間参入を促す政策も発表されており、将来的な市場性に大きな期待が寄せられている。

アストロスケールも過去1年以上にわたりインド市場を注視し、現地企業や政府機関との連携を通じてビジネス機会を見出そうとしてきた。

2025年3月には、インド政府も注目するスタートアップであるBellatrix Aerospace社・Digantara社とMOU締結。また、市場開拓支援や現地でのプログラム運営において豊富な経験を持ち、日本企業とのビジネスにも長年携わってきたMEMCO Associates社ともMOUを締結し、「売り」と「買い」の両面からインド市場での協力関係を推進するべく活動を進めている。

今回のNSILとの契約は、これらの取り組みを後押しし、インド市場との結びつきをさらに強めるものとして期待されている。

さいごに

今回のNSILとの契約は、アストロスケールにとって単なる打上げ手段の確保にとどまらない。ISSA-J1ミッションを通じて、軌道上サービスの基盤となるRPO技術を確立し、国際市場におけるプレゼンスをさらに高めようとしている。

世界有数の実績を誇るPSLVを選び、日本企業として初めて専用打上げを調達したことは、インドを戦略的パートナーとする姿勢を鮮明に示すものでもある。

日本発の宇宙スタートアップが、国際的な枠組みの中で商業的地位を築こうとする動きは、日本の宇宙ビジネスにとっても良い兆しではあるので、今後とも同行に期待したい。

参考

アストロスケール、大型衛星デブリの接近・観測ミッションについてインドのNSILと打上げ契約を締結(アストロスケール, 2025-09-12)

アストロスケール、インド宇宙企業との連携強化のため現地企業3社とMOUおよび共同事業契約を締結(アストロスケール, 2025-09-12)

NSIL 公式サイト(2025-09-12)

ISRO 公式サイト(2025-09-12)

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