世界初、三菱電機が民生品を活用した宇宙光通信用システムの性能劣化を評価
©三菱電機株式会社の画像を使用

2024年9月19日、三菱電機株式会社は、民生品を活用した宇宙光通信用レーザー光源モジュールの宇宙実証において、6か月間の性能評価を実施した結果、性能劣化がないことを確認したと発表した。

民生品を活用した宇宙光通信用レーザー光源モジュールについて、宇宙における性能劣化を評価したのは世界初だという。

本記事では、同社がこの実証を行った背景と、実証のポイントについて解説する。

宇宙光通信の実用性

近年、宇宙空間における通信技術は様々な進化を遂げている。その中でも注目を集めているのが宇宙光通信だ。

この技術は、レーザー光を使ったデータ伝送を行うものであり、特に、比較的高度の低い位置にある地球観測衛星と高度約3万6,000㎞にある静止衛星の間の通信や、静止衛星と航空機との通信等における実現が目指されている。(雲があると地上-衛星間の光通信はできないため)

宇宙光通信は、従来の電波通信に比べて以下のような利点がある。

  1. 大容量・高速通信:レーザー光は電波よりも多くのデータを速く伝送できるため、人工衛星が撮影した高解像度の画像や映像データを迅速に地上に送ることができる。
  2. 高い安全性:宇宙光通信では、非常に細いレーザー光線(ビーム)を使用するため、電波と比較して干渉や傍受の恐れがない。
  3. アンテナの小型・軽量化:電波よりも波長が短いレーザー光を利用することで受信装置であるアンテナを小型化可能。これにより、宇宙機や地上設備の設置が容易になり、コストや労力の削減につながる。

これにより、宇宙光通信は災害でインフラ機能が停止した地域における迅速な情報伝達や、基地局(アンテナ)の設置が難しい過疎地・離島への安定したインターネット通信の提供、さらには、次世代の宇宙探査においても応用が期待されている。

そのため、世界では高価な宇宙専用機器を使った宇宙光通信の利用が進んでいるのだ。

地上各地とつながる宇宙光通信のネットワークイメージ
地上各地とつながる宇宙光通信のネットワークイメージ ©三菱電機株式会社

三菱電機による宇宙光通信用モジュール開発

三菱電機は、地上における光ファイバー通信などでも使用されている、波長が1.5μmのレーザー光を活用した、宇宙光通信技術の開発を進めてきた。

地上における光ファイバー通信で使用されている種類のレーザー光を宇宙光通信に利用すると、開発する宇宙光通信機器に地上の民生部品を活用することができる。

宇宙専用の部品は特注品であることがほとんどであるが、量産可能な民生品を活用することで、低価格・短納期が期待できるのだ。

同社はまず、2022年5月に、同種のレーザー光向けとしては世界初となる宇宙光通信の光受信器を開発。

その後、これまで培ってきた宇宙空間環境下で安定動作する部品選定や基板設計などのノウハウを基に、放射線や熱真空などの宇宙環境の影響による劣化を抑えることが可能な、地上の民生部品を活用したレーザー光源モジュール(レーザー光を発生させるためのシステム)も開発。

従来の同社の技術と比較して高性能化や低コスト化、開発期間の短縮を実現した。

三菱電機株式会社が開発した光源モジュール
三菱電機株式会社が開発した光源モジュール ©三菱電機株式会社

世界初、民生品活用モジュールの宇宙実証

三菱電機は、民生品を活用して開発した上記のレーザー光源モジュールを、超小型人工衛星「OPTIMAL-1」に搭載し、2023年1月から宇宙実証を実施。宇宙光通信で重要なレーザー光周波数制御の機能実証に成功してきた。

そして今回は、この実証において得られた6か月間の光源出力光パワーの数値をもとに性能評価を実施。

その結果、放射線や熱真空によって性能が劣化しやすい宇宙環境においても出力性能の劣化がないことを確認し、当初計画されていた目標以上の成果を取得。

人工衛星間でレーザー光を用いた通信を行う際に人工衛星がそれぞれの速度で動くために生じるドップラー効果(レーザー光周波数の変化)を補正するために必要な性能を、世界で初めて宇宙空間にて実証したのである。

これにより、同社は設定した4段階すべての目標を達成した。

今回の宇宙実証における全達成目標
今回の宇宙実証における全達成目標

レーザー光源モジュールの宇宙実証のポイント

今回の宇宙光通信用レーザー光源モジュールの宇宙実証におけるポイントは以下の2つ。

宇宙空間での性能評価を世界で初めて実証

レーザー光は、自身を発生させるレーザーダイオード(LD)の温度変化によって周波数や出力が変動するという特性がある。

ドップラー効果(レーザー光周波数の変化)の影響低減のために周波数を補正する際には、温度変化によるレーザー光周波数の変動も加味して補正する必要があるため、レーザー性能の安定性が重要だろう。

特に、LDが劣化すると温度変化の影響を受けやすくなり、周波数や出力の変動の大きさも大きくなる傾向がある。

しかし同社は、宇宙空間で6か月経過した光源モジュールが、LD温度が21℃~27℃において、ドップラー補正に必要なレーザー光周波数変化量が地上評価時と比べて劣化しないことを世界で初めて実証。

また、レーザー出力性能においても、光パワーが維持されており劣化がないことを確認した。

左:地上評価と軌道上での実証における性能評価比較、右:6カ月間にわたる性能評価(●:実際の数値、I:測定誤差)
左:地上評価と軌道上での実証における性能評価比較、右:6カ月間にわたる性能評価(●:実際の数値、I:測定誤差) ©三菱電機株式会社

アークエッジ・スペース主導の産学連携で迅速かつ低コストを実現

今回、同社のレーザー光源モジュールを搭載した「OPTIMAL-1」は、株式会社アークエッジ・スペースが主導し、株式会社Pale Blue、セーレン株式会社、福井大学、東京大学、三菱電機との産学連携で実現した超小型の実証衛星だ。

この産学連携の超小型人工衛星を活用したことで、大規模な宇宙開発プロジェクト(政府主導の大型人工衛星など)への参画と比べて、短期間で低コストの実証を実現。

計画から宇宙実証までの開発期間を約3分の1となる3年に短縮し、コストは約100分の1に削減されたという。

株式会社アークエッジ・スペースについてはこちら

さいごに

いかがでしたか。

今回の実証成果について、福井大学 特命准教授の青柳賢英氏 は以下のようにコメントしている。

今後の宇宙産業の発展のためには、高性能な地上民生部品の技術を積極的に取り入れていく必要があり、そのためには、軌道上での動作実績を積むことが重要です。

今回のOPTIMAL-1での実証の成功は、光通信が可能な超小型衛星の実現に向けて、大変重要な成果です。この成功をきっかけに、さらに超小型衛星の産業利用が進展していくことを期待します。

福井大学 特命准教授 青柳賢英氏 

三菱電機は今後、宇宙光通信の実現に向けて、宇宙光通信用レーザー光源モジュールの技術開発をさらに進めるとともに、主に官需開発プログラムへ提案していくとのこと。

また、超小型人工衛星など宇宙実証プラットフォームを積極的に活用し、光部品の宇宙空間環境への適応に向けた研究開発を推進していくという。

参考

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