2023年10月8日、株式会社EX-Fusionと、オーストラリアのEOS Space Systems社は、スペースデブリ問題に関する協力の可能性を探るため、基本合意書を締結した。
EX-Fusionは国内で唯一、世界初のレーザー核融合炉の建設と、それによる電力の供給を目指すスタートアップ企業であるのだが、同社は一体どのようにしてスペースデブリ問題に取り組むのだろうか。
本記事では、注目の同社の技術に迫る。
どのような企業?
はじめに、今回登場する2つの企業について、簡単に紹介する。
EX-Fusion
EX-Fusionは、レーザー核融合の研究開発を行ってきた研究者により設立された企業。
核融合とは、軽い原子核が高温・高圧の状態で合体し、より重い原子核を形成する過程のこと。この過程で放出される大量のエネルギーは電気エネルギーに変換することができ、二酸化炭素の排出がないクリーンな電力源として注目を集めている。
核融合の中でも、同社の開発するレーザー核融合は、高エネルギーのレーザー(ハイパワーレーザー)を用いて核融合反応を起こすものだ。
レーザー核融合によって電力を得るためには、非常に高いエネルギーのレーザーを正確に制御する技術が必要であり、同社は、レーザー核融合炉の建設と電力の提供に向けて技術開発を加速。
同時に、その過程で得られる最先端の光制御技術・知見等を活用し、エネルギー分野にとどまらず、様々な産業分野への貢献を目指している。
EOS Space
EOS Spaceもまた、ハイパワーレーザー技術を用いた事業を行う企業である。
注目すべきはハイパワーレーザーを駆使し、宇宙空間にある衛星やデブリなどの物体を追跡し、ミリメートルレベルで動きを測定する技術。
この技術により、衛星の軌道を正確に調整したり、デブリとの衝突を回避したりすることが可能で、衛星の運用において重要な部分を担っている。
また、同社はハイパワーレーザー技術を用いて、スペースデブリ除去にも長年取り組んでおり、この機能を開発および展開するための投資パートナーやクライアント、協力者を積極的に求めていたのだ。
スペースデブリ問題にどのように取り組むのか
ハイパワーレーザー技術に強みを持つEX-Fusionと、ハイパワーレーザーを宇宙で活用する実績を持つEOS Spaceは、それぞれの技術を持ち寄り、スペースデブリ問題に対して協力の可能性を探索する。
そこで考えられているのが、ハイパワーレーザーシステムを装備した地上ステーションを利用して、地上からレーザーをスペースデブリに当てることで、スペースデブリを動かし、衛星や宇宙機との衝突を防ぐ方法だ。
これは、レーザーをスペースデブリに照射すると、照射した表面に対して垂直方向に生じる反力を利用するものだと考えられる。
この反力を利用することで、デブリの速度を減速させて大気圏に落として除去したり、デブリの軌道を変えたりることで、衛星との衝突を防ぐことができるのだ。
EX-FusionとEOS Spaceが目指すデブリ除去技術の強み
EX-FusionとEOS Spaceが実現を目指すデブリ除去技術の強みは以下の2つ。
- 更なるスペースデブリを生む危険性が低い
- 経済性が高い
スペースデブリを除去する方法には、ロボットアームでデブリを掴み回収する方法、磁力を利用してデブリを捕獲する方法、衛星からデブリにレーザーを照射する方法など多岐にわたるが、これらは共通して新たにスペースデブリ対策用宇宙機を開発し、打ち上げる必要のあるものが多い。
さらに、それらの中の多くはスペースデブリに直接接触または接近するため、もし宇宙空間で事故を起こしてしまった場合、更なるスペースデブリを生む可能性がある。
しかし、今回の技術では地上からレーザーを打つだけなので、上記の流れでデブリになる可能性を回避することができる。
また、衛星や宇宙機を打ち上げるだけでも、何十億~何百億もの費用が必要である上に、宇宙空間でスペースデブリと宇宙機が衝突し、宇宙機が使用不能になった際には、その宇宙機を作り直す費用がかかる。
一方、今回の技術では、そもそも地上のシステムであるため、上記のようなコストはかからない。
このように両社が考える、地上のハイパワーレーザーシステムを用いた方法は、「地上から」スペースデブリを除去することにより、安全かつ経済的な方法として期待されるのだ。
さいごに
いかがでしたか。
EX-FusionとEOS Spaceの協力により、スペースデブリ問題への新たなアプローチが期待できる。
今回の技術が実用化されれば、宇宙の安全と持続可能性が一層向上するだろう。
今後の両社の動向に注目である。