
2025年8月22日、損害保険ジャパン株式会社(以下、損保ジャパン)、SOMPOリスクマネジメント株式会社(以下、SOMPOリスク)、日揮グローバル株式会社、Momentick Ltd.の4社は、「メタン排出検知に関するソリューション」の提供を開始した。
4社の発表によれば、損害保険と連動したメタン排出検知の取り組みは国内初である。
本記事では、この事例を通じて、宇宙データが企業の脱炭素経営にどのように作用するのかをご紹介する。
目次
メタン排出の課題
メタンは二酸化炭素に比べて温室効果が28〜84倍強いとされ、削減の優先度が高い温室効果ガスである。
2021年に始まった国際枠組み「Global Methane Pledge」では、2030年までに世界全体のメタン排出量を2020年比で30%削減する目標が掲げられた。2025年のLNG産消会議でも、LNG(液化天然ガス)バリューチェーン全体での削減方針が確認されるなど、国際的に削減目標が相次いで示されている。
こうした流れの中で、企業には排出量を正確に把握し、説明責任を果たすことが強く求められている。
一方で、メタンは目に見えず、漏洩の場所や量を特定するのが難しい。従来の地上測定には対象範囲の限界があり、企業にとって「どこで、どれだけ」排出しているのかを示すことが依然として大きな課題となっている。
衛星を活用したメタン排出検知ソリューション
ソリューション概要
損保ジャパンら4社が提供する本ソリューションでは、SOMPOリスクが衛星画像を解析し、特定資産周辺におけるメタン排出の発生地点と量を特定。その結果と評価をリスクレポートとして損保ジャパンに提供する。顧客は、このリスクレポートを活用することで、メタン排出の可能性がある箇所を把握し、効果的な対応策を検討できる。
各社の役割は以下の通りである。
- 損保ジャパン:ソリューション全体の提供を推進し、貨物保険など既存サービスと連携
- SOMPOリスク:衛星解析を用いた簡易スクリーニングおよび定期レポートを実施
- 日揮グローバル:排出量のMRV(測定・報告・検証)に関するコンサルティングおよび実測サービスを提供
- Momentick:任意地点のメタン排出を詳細に分析し、レポートとして提供

(SOMPOホールディングスのPRTIMESから引用)
注目ポイント
1|Momentickとの連携
希望する顧客には、イスラエルのMomentick社が提供するソフトウェアが紹介される。同社は、自社で取得した衛星画像を解析し、温室効果ガスの排出地点や排出量を高解像度で特定する技術に強みを持つ。
現在は資産周辺のメタン排出を詳細に解析するサービスを展開しており、今後1年以内に二酸化炭素や一酸化二窒素への対応拡張も視野に入れている。SOMPOリスクが作成するリスクレポートにMomentickの解析結果を組み込むことで、従来の無償レポートと比較し、より高精度かつ詳細な分析が可能となる。

2|GOSATデータの活用
今後は、SOMPOリスクが発行するリスクレポートに、日本の温室効果ガス観測衛星「GOSAT-GW」のデータが活用される予定である。
GOSATは2009年、日本が世界で初めて打ち上げた温室効果ガス観測専用衛星であり、環境省・国立環境研究所・JAXAが共同で運用してきた。地球規模で二酸化炭素やメタンの濃度を観測し、国際的な研究や政策立案を支えている。
搭載されるTANSOセンサは、地表や大気から放射される赤外線を観測し、二酸化炭素やメタン濃度を高精度に推定できる。これにより、従来の地上観測では把握できなかった温室効果ガスの広域分布をグローバルに可視化することが可能となった。
2025年6月に打ち上げられた最新機「GOSAT-GW」には改良型TANSO-3センサが搭載され、観測データ数はGOSAT-2の100倍以上に拡大。国・地域・企業単位での排出量把握の精度が一段と高まっている。
SOMPOリスクは国立環境研究所の知見をもとに推定手法を設計し、リスクレポートの信頼性を高めていく方針だ。こうした取り組みは、宇宙データが研究や政策を超えて、企業の脱炭素経営を実務的に支える先駆的事例といえる。

さいごに
今回の取り組みは、保険と宇宙データを組み合わせた国内初の実証であり、メタン排出という国際的課題に対する具体的な解決策を提示した。衛星データが研究や政策を超えて企業の実務に浸透し始めたことは、脱炭素経営の実効性を高めるうえで大きな意義を持つ。本事例を通じて、宇宙データが企業経営に不可欠な基盤となっていくことを期待する。
参考
【日本初】損害保険と連携したメタン排出検知ソリューションの提供開始(SOMPOホールディングス, 2025-08-26)
「いぶきGW」(GOSAT-GW)搭載 温室効果ガス観測センサ3型(TANSO-3)の初観測について(環境省, 2025-08-26)