
国土地理院は、2025年12月8日に青森県沖で発生した地震に伴う地殻変動について、SAR衛星を用いた解析結果を公表した。
観測には、JAXAの地球観測衛星「だいち2号(ALOS-2)」および「だいち4号(ALOS-4)」が用いられ、地上からは確認しづらい広範囲の地殻変動が可視化された。災害発生後の状況把握において、SAR衛星による観測はどのような役割を果たすのか。本記事では、その仕組みを整理する。
目次
青森県沖での地震による地殻変動観測
青森県沖で発生した地震では、地域ごとに揺れの強さや被害状況が異なり、生活やインフラに影響が生じた。地震による影響は、建物被害や人的被害といった目に見えるものに加え、地下で生じる地殻変動も含めて多面的にとらえる必要がある。
特に、余震の発生や地盤の不安定化、斜面崩壊などの二次的なリスクを考える上では、地震後にどの範囲で、どの程度の地殻変動が起きているのかを把握することが重要となる。
こうした背景から、今回の地震については、地上観測に加えて人工衛星を用いた解析が行われ、地下の変化を含めた状況整理が進められた。
だいち2号・だいち4号による観測結果
観測には、JAXAの地球観測衛星「だいち2号(ALOS-2)」と「だいち4号(ALOS-4)」が用いられた。国土地理院によるデータ解析の結果、以下の2点が確認された[※1]。
- 青森県東部を中心とした、最大約9cm(暫定値)の衛星から遠ざかる方向の変動(図1)
- 青森県下北地域周辺における、衛星に近づく方向の変動(図2)
今回の解析では、地上からは把握しにくい地殻の変動について、広い範囲を対象に状況が整理された。地上観測では点として捉えられる情報を、衛星からの観測では面的に把握することができる。
※1:速報値につき、より詳細な分析等により今後内容が更新される可能性がある

SAR衛星による観測の特徴
地殻変動の把握には、現地調査や地上観測が不可欠である一方、それだけでは広範囲の状況を短時間で把握することは難しい。特に災害発生直後は、被災状況や交通事情によって調査が制限されるケースも少なくない。
こうした状況下では、人工衛星による観測が有効な手段となる。その中でもSAR衛星は、災害対応において重要な役割を果たす。
SAR衛星による地殻変動の把握方法
今回の地震における地殻変動観測では、2つのSAR衛星「だいち2号(ALOS-2)」と「だいち4号(ALOS-4)」によるSAR干渉解析が行われた。
SAR干渉解析とは、同一地域における地震発生前と地震発生後の観測データを比較し、地表のわずかな変位を検出する手法である。これにより、地殻変動が生じた範囲や、変動の方向・大きさを広域にわたって、短時間で把握できる。
観測条件に左右されにくいという強み
SAR衛星は、可視光ではなく電波(レーダー)を用いて地表を観測する。そのため、天候や昼夜の影響を受けにくいという特徴を持つ。雲が多い状況や夜間であっても観測が可能であり、地震発生直後のような不安定な環境下でも、継続的にデータを取得できる。
光学衛星は雲量や照度といった条件で画像が変わるため、変化検知には不向きである。災害発生時には、撮影条件が整うまで観測・解析を待たざるを得ない場合もあるだろう。これに対し、SAR衛星は発災直後から観測を実施できる可能性が高く、初動段階における状況把握に適している。
こうした特性により、迅速な判断が求められる災害対応の場面において、SAR衛星は実用性の高い観測手段として位置付けられる。

さいごに
今回の青森県で発生した地震では、SAR衛星を活用することで、地殻変動の状況が広範囲にわたって整理された。だいち2号・だいち4号による観測と、国土地理院による解析結果の公表は、災害発生後の状況把握において人工衛星が果たす役割を示す事例といえる。
人工衛星による観測は、研究用途にとどまらず、災害時の初動対応や継続的な監視を支える実用的な手段として位置づけられつつある。今後も同様の地震発生時に、SAR衛星を用いた観測が、防災・減災の取り組みを下支えしていくことが期待される。
本記事でご紹介したSAR衛星「だいち2号・だいち4号」は三菱電機が製造を行なっているが、その他にもSAR衛星を製造・運営するsynspectiveやQPSホールディングスなどは複数のポジションで求人募集をしている。
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参考
『2025年12月8日青森県東方沖の地震に伴う地殻変動』(国土地理院, 2025-12-15閲覧)




