
2026年6月29日、Rocket Lab Corporation(Nasdaq:RKLB、以下「ロケットラボ」)とIridium Communications Inc.(Nasdaq:IRDM、以下「イリジウム」)は、ロケットラボがイリジウムを買収する最終契約を締結したと発表した。
ロケットラボはこれまで、ロケットによる打ち上げサービスや衛星製造を手がけてきた企業である。今回の買収が完了すれば、米衛星通信大手イリジウムが持つ衛星通信ネットワークや周波数帯、顧客基盤を取り込むことになり、SpaceXに近い事業モデルへ踏み込む動きとしても注目される。
本記事では、ロケットラボによるイリジウム買収の概要と狙い、注目ポイントについて解説する。
目次
ロケットラボによるイリジウム買収の概要
取引条件と完了時期
今回の取引では、ロケットラボがイリジウムの発行済み普通株式すべてを取得する。取得額は1株あたり54ドル相当で、現金とロケットラボの普通株式を組み合わせた形で行われる。これにより、イリジウムの企業価値は約80億ドルと評価されている。
取引はすでに両社の取締役会で全会一致により承認されている。今後はイリジウム株主の承認や必要な規制当局の承認などが必要であり、取引完了は2027年半ばを見込んでいる。
イリジウムがもたらす資産
買収対象となるイリジウムは、低軌道衛星を用いた世界規模の衛星通信ネットワークを運用する企業であり、1998年に商用サービスを開始。地球全体をカバーするため、66機の運用衛星を基本構成としている。
端末と衛星を結ぶ通信に適したLバンド周波数帯を持ち、衛星電話などの音声通話やデータ通信、測位・航法・時刻同期(PNT)に関するサービスを提供している。
Lバンドは、雨や雲などによる通信劣化を比較的受けにくく、移動体向けの衛星通信に適した周波数帯だ。こうした特性は、海上や航空、災害対応、商業分野に加え、安定した通信が求められる政府・防衛用途とも相性がよい。イリジウムは、このLバンド周波数帯等を利用した低軌道衛星ネットワークを活用し、世界で255万以上のユーザーを支えている。

ロケットラボは今回の買収により、イリジウムが持つ衛星インフラ、顧客基盤に加え、長年にわたり衛星通信サービスを運用してきた知見と経験を取り込む。
加えて、イリジウムが持つLバンド周波数帯も、ロケットラボにとって重要な資産だ。衛星通信では、同じまたは近い周波数帯が使われると通信が干渉する可能性がある。そのため、使用できる周波数帯は限られており、新たな衛星通信サービスを展開するには、各国の規制や国際的な調整を踏まえて周波数帯を確保する必要がある。
すでに世界規模で利用されているLバンド周波数帯を持つイリジウムは、ロケットラボが衛星通信サービスを拡張するうえで有利な出発点となる。
買収の狙いと注目ポイント
SpaceXのような「垂直統合型」の宇宙企業に
今回の買収で注目されるのは、ロケットラボがSpaceXに近い「垂直統合型」の事業モデルへ踏み込む点である。
ロケットによる打ち上げサービスや、衛星や衛星部品の製造を手がけているロケットラボが、衛星通信サービスを展開するイリジウムを統合することで、衛星を作り、打ち上げ、軌道上で運用し、通信サービスとして提供するまでを自社で担えるようになる。これは、Falcon 9などの打ち上げ能力とStarlinkによる衛星通信サービスを自社で展開するSpaceXに近い、垂直統合型の事業モデルといえる。
垂直統合型の事業モデルにより、ロケットラボは自社の打ち上げ能力を衛星網の展開や更新に活用できるようになる。打ち上げ機会を自社で確保できれば、衛星の追加投入や更新を進めやすくなり、サービスの継続性も高めやすい。
また、打ち上げや衛星製造は案件ごとの収益になりやすい一方、通信サービスは、加入者や法人顧客から継続的な収益を得やすい。SpaceXにおいては、Starlinkを中核とする通信インフラ事業が最大の収益源となっている。イリジウムは2025年に8億7,170万ドルの売上を計上しており、ロケットラボは今回の買収によって事業収益性を高める狙いもある。
D2Dや衛星IoTなど次世代サービスの展開へ
ロケットラボは今後、イリジウムの既存の衛星通信インフラを活用しながら、両社の技術や知見を組み合わせ、次世代衛星コンステレーションの開発・展開を進めていく。
これにより、衛星IoT、デバイスへの直接通信、PNT(測位・航法・時刻同期) 、人命・安全に関わる重要通信サービスなどにおいて、次世代のサービスを開拓し、新たな価値を提供していくことを目指す。
その中でも注目されるのが、端末と衛星を直接つなぐ、デバイスへの直接通信サービス(D2D/イリジウムNTNダイレクト)である。
D2Dは、従来の地上ネットワークが利用できない、または機能しにくい状況において、信頼性の高い通信を確保するための新たな手段として期待される。特に、国家安全保障や災害時等の緊急対応では、地上通信に依存しない通信手段の重要性が高まっている。
ロケットラボにとって今回の買収は、こうした次世代の衛星通信サービスに踏み込む足がかりにもなり得る。
さいごに
今回の買収が完了すれば、ロケットラボは打ち上げ、衛星製造、衛星通信ネットワーク、周波数帯、顧客基盤を一体的に持つ宇宙企業へと近づくことになる。
特に、SpaceXに近い垂直統合型の事業モデルへの移行や、デバイスへの直接通信、衛星IoT、PNTなどの次世代サービスへの展開は、今後の注目点である。
一方で、取引はまだ完了していない。今後は、イリジウム株主の承認や規制当局の承認を経て、買収手続きがどのように進むのかに加え、ロケットラボがイリジウムの衛星通信インフラをどのように活用していくのかが焦点となる。
宇宙業界では現在、様々な企業が人材を募集している。興味のある方は、業界特化型の人材マッチングサービス「スぺジョブ」をチェックしていただきたい。












