IST、ロケット最難関の1つ「ターボポンプ」の自社開発に成功
©Space Connect

2024年8月23日、インターステラテクノロジズ株式会社は、小型人工衛星打ち上げロケット「ZERO」のエンジン「COSMOS」用ターボポンプについて、最終試験が成功し、サブスケールモデル(実機の縮尺を小さくしたモデル)での開発が完了したことを発表した。

ロケットの中で最も開発が難しい要素の1つと言われるターボポンプにおいて、同社は国の基幹ロケット関連企業以外では国内で唯一、技術を保有する会社となった。

本記事では、ターボポンプ開発の難しさやISTが成し遂げた成果についてご紹介する。

ターボポンプとは

燃料を高圧にして燃焼器に送り込む「心臓部」

ターボポンプは、ロケットエンジンの一部で、その要となるシステムだ。

ロケットエンジンでは、燃料と酸化剤を高圧で燃焼器に送り込み、燃焼器で燃焼させて得た高温、高圧のガスをノズルから噴射させることで推進力を得る。

その中で、ターボポンプはエンジンの燃焼器に燃料と酸化剤を送る「心臓部」に当たるものである。

ターボポンプの内部にはタービンがあり、これを1分間に数万回転と超高速で回転させることで軸でつながったポンプを駆動させ、燃料や酸化剤を高圧にして送り込む。

また、ポンプとタービンをつないで滑らかに回転させるための軸受や、低圧の燃料と高圧の燃焼ガスが混ざらないように漏れを防ぐ軸シール等もあり、とても精密なシステムなのだ。

「ZERO」エンジン用ターボポンプ©インターステラテクノロジズ株式会社
「ZERO」エンジン用ターボポンプ©インターステラテクノロジズ株式会社

ターボポンプの開発が難しい理由

ターボポンプの開発は難しく、日本でもH-Ⅱロケット8号機ではターボポンプが原因で打ち上げに失敗したり、H3ロケットでは新規開発したLE-9エンジンのターボポンプで問題が確認されたため打ち上げが延期されたりといった事例がある。

その難しさの1つは、自身の超高速回転による振動等に耐えながらも、壊れずに、そして滑らかに回転しつづけなければならない点にある。

その際には単に本体を大きく、重く、強いものにして振動を抑えるのではなく、打ち上げる人工衛星のために重量を確保するため、小型で軽量なものにしなければならない。

また、燃料を吸い込む低圧、低温の部分とガスを排出する高圧、高温の部分が共存するため、それらの影響を加味して設計しなければ、超高速回転を達成することはできないのだ。

「ZERO」エンジン用ターボポンプの開発

国の知見を取り入れて開発

ZEROエンジン用ターボポンプの設計は2019年から、日本の基幹ロケット用エンジンの開発に関する豊富な経験と実績を有している国立大学法人室蘭工業大学との共同研究として開始。

2021年9月にはポンプ製造国内最大手の株式会社荏原製作所が加わり、3者による共同研究開発が行われてきた。

このターボポンプ開発グループは、基幹ロケットでのターボポンプ開発経験者やロケットシステム設計経験者を複数有している。

また、試験は、ロケットエンジンやターボポンプの試験実績が豊富な株式会社IHIエアロスペースの協力のもと、IHIエアロスペース相生試験場にて実施。

以上のように、開発難度の高いターボポンプは設計・製造・試験いずれの過程も国内の知見を取り入れて開発された。

最終試験の概要と結果

今回は、ターボポンプ開発の最終仕上げとなる熱走試験がサブスケールモデルにて実施された。その試験概要と結果は以下の通りである。

ZEROエンジン用ターボポンプ試験の詳細
ZEROエンジン用ターボポンプ試験の詳細 ©Space Connect株式会社

「ZERO」用ターボポンプの特徴

インターステラテクノロジズが開発するロケット「ZERO」のターボポンプの特徴は、燃料ポンプと酸化剤ポンプを一体化させた「一軸式」であることにある。

この方式は、燃料と酸化剤それぞれでポンプを分ける場合と比べて技術的な難度が高い。

一方で、エンジンシステム全体の小型・軽量化や部品点数の削減が可能であるため、低コスト化に繋がるのだ。

インターステラテクノロジズが開発するロケット「ZERO」のエンジンの仕組み
インターステラテクノロジズが開発するロケット「ZERO」のエンジンの仕組み ©インターステラテクノロジズ株式会社

コア技術の自社開発でコスト競争力を強化

「ZERO」の強み

今回開発したターボポンプを搭載する「ZERO」は、近年の市場拡大を牽引している小型サイズの衛星をターゲットにした小型ロケットだ。

ZEROの強みは、一気通貫の開発・製造体制で実現する1機あたり打上げ費用8億円以下(量産時)の「競争力のある価格」と、多様化する衛星のビジネスモデルに合わせて専用に打ち上げる「柔軟性」である。

ターボポンプをはじめとするコア技術を自社で保有することで、コスト競争力のある価格を実現。

他の衛星との乗り合いでは行けないようなニッチな軌道にも、低コストで、ダイレクトに運ぶことができる。

さらに、国内やアジア・オセアニア諸国の衛星事業者に対しては、アメリカの発射場よりも近いため、輸送などの打ち上げまでの手間やコストがかからない「利便性」も提供価値となる。

アジア・オセアニアでのポジション確立へ

ZEROがターゲットとする小型衛星の重量は100~200kg級がボリュームゾーンであるが、インターステラテクノロジズは昨今の衛星大型化の流れに応え、最大800kgを打ち上げられるロケットに能力増強を図った。

他の小型ロケットでは打ち上げられない衛星も打ち上げられるようになることで差別化され、需要を獲得することができるだろう。

インターステラテクノロジズは、国内の自立的な宇宙輸送サービス構築に貢献するとともに、アジア・オセアニアや欧州市場におけるポジションを確立していくとしている。

ロケット「ZERO」の仕様
ロケット「ZERO」の仕様 ©インターステラテクノロジズ株式会社

さいごに

いかがでしたか。

インターステラテクノロジズは、「ZERO」のターボポンプについて、今回の試験と並行して既に、実際に宇宙に打ち上げるフライトモデルの設計を完了しているとのこと。

現在は組立工程に入っており、今冬には同モデルでの試験を計画している。

インターステラテクノロジズが開発する小型人工衛星打ち上げロケット「ZERO」は、技術的に難易度の高いターボポンプの自社開発に成功したことで、さらに一歩、実現に近づいた。

同社の今後の活躍にも期待である。

参考

インターステラテクノロジズ株式会社 プレスリリース
荏原製作所 HP
JAXA HP
JAXA プレスリリース
JAXA プレスリリース

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