「アルテミス計画」の最初のミッション「Artemis Ⅰ(アルテミス1号)」がついに開始されようとしている。2022年8月29日、1回目の打ち上げ機会はエンジントラブルにより延期に。
次の打ち上げ機会は日本時間9月3日1時48分、もしくは9月6日6時12分となっている。
アルテミス計画とは、2019年5月に発表された、アポロ計画に続く人類による月面着陸・月探査計画。史上初の女性や有色人種の飛行士による月面着陸を目指している。
同計画の最初のミッションであるArtemis Ⅰは無人での宇宙飛行試験。
主な目標は、宇宙飛行環境で宇宙船「Orion」のシステムを実証し、将来の有人飛行に向けて安全な再突入、降下、着水、及び回収を確実にすることだ。
Orionは世界最強の打ち上げ能力を持つNASAの大型ロケット「SLS」によって打ち上げられる。
その後、これまで有人宇宙船が到達したことのない、地球から約45万km、月から6万4000kmの距離まで移動し、月を周回。
打ち上げからおよそ4~6週間後に地球に帰還する予定だ。
今回のミッションでは、Orionと同時に10基の超小型衛星・探査機が打ち上げられる。それぞれわずか11kg前後の重さに、将来の有人宇宙探査に役立つかもしれない科学と技術を含んでいる。
ここからは、搭載される小型衛星・探査機10基について紹介する。
日本で開発されたものも2基含まれているので、要注目だ。
Lunar Icecube(モアヘッド州立大学:ケンタッキー州モアヘッド)
Lunar Icecubeは、月を周回し、赤外線分光計を用いて、月の水や氷を詳しく調査する。
月のレゴリス(岩石や塵が多い表面)からの水の吸収と放出のプロセスを、場所をマッピングしながら調査。
これにより、NASAは月で起きているこれらの変化を地図にすることができる。
また、同衛星は、月の周囲にある非常に薄い大気のような外気圏も調査。月の水やその他の物質の動態を把握することで、月の氷の季節変化を予測する。得られた情報は、将来、月の水を資源として利用する時に活かす。
LunaH-Map(アリゾナ州立大学:アリゾナ州テンピ)
LunaH-Mapは、月の南極にある永久影領域(クレーターなど)と、水素との関係を理解するために、10km以下の空間スケールで水素の存在量を明らかにする。永久影は太陽光が全く届かない領域のことをいう。
同衛星は、月の南極で高度が低くなる(5〜10km)楕円軌道を周回。
2ヶ月間の科学観測期間中に、140回以上、南極上を低高度で飛行する予定だ。
LunIR(Lockheed Martin社、コロラド州デンバー)
LunIRは、高度な月面の赤外線イメージングを実施。熱的特徴や物質組成などをとらえる月面の画像を撮影する。
この技術が発展することにより、月の組成、構造、太陽粒子と月の土との相互作用に関する情報が得ることが可能に。今後の有人月探査におけるリスクを軽減することに役立つ。
LunIRの赤外線センサーは、昼夜を問わず月を観測できるのが特徴。この特殊な光のスペクトルは、反射した太陽光と熱放射の両方を測定することができる。
OMOTENASHI(JAXA:日本)
日本のOMOTENASHIは、世界最小の月面着陸機。飛行中の放射線量の計測も行う。
Artemis Ⅰに搭載される10基のうち、唯一月面着陸を行う探査機だ。
ロケットから分離された後、日本からの遠隔で軌道制御を行い、着陸を目指す。
成功すれば、旧ソ連、米国、中国に続く4カ国目の月面着陸となる。
OMOTENASHIの名前は、当初の打ち上げ予定が東京五輪の開催前だったことにちなんだという。日本の月探査の第一号として着陸し、月を訪れる人々や探査機を「もてなしたい」との思いも込められている。
CuSP(サウスウエスト研究所、テキサス州サンアントニオ)
CuSPは、太陽周回軌道へと投入され、太陽から地球に向かう太陽放射(太陽風)を研究。
具体的には、太陽から放出される粒子や磁場を観測する。
巨大な太陽風の放射は、電波通信への干渉、人工衛星の電子機器の故障、さらには送電線に渦電流を発生させるなど、宇宙空間や地球において人間社会に様々な影響を及ぼす。
太陽風について計測を行うことで、地球に到達する何時間も前に、太陽風の大きさなどの予測(宇宙天気予測)を行うことを可能にする。
BioSentinel(エイムズ研究センター:カリフォルニア州シリコンバレー)
Biosentinelは、酵母を用いて、宇宙放射線が長期間にわたって生物に与える影響を検出、測定、比較する。
宇宙放射線は、遺伝情報を運ぶDNAの二重らせん構造を切断し、深刻な健康問題を引き起こす可能性がある。ISS(国際宇宙ステーション)では、地球の磁場により宇宙飛行士は宇宙放射線の影響を受けることはない。しかし、今後、宇宙探査がより地球から遠いところで行われることを考えると、宇宙放射線が人体に与える影響を明らかにしなければならない。
Biosentinelは、宇宙放射線に対する生物学的反応を、ほぼ50年ぶりに調査。月や火星の着陸船や周回船など、さまざまな宇宙環境で活動するための、適応性の高いプラットフォームを提供する。
EQUULEUS(東京大学・JAXA:日本)
EQUULEUS(エクレウス)は、地球から月裏側のラグランジュ点まで航行し、3つの科学観測を行う。
月ラグランジュ点とは、地球と月それぞれの引力と宇宙機の公転のよる遠心力が釣り合う場所。つまり、天体と天体の間にいる宇宙機が安定するポイントである。実施する科学観測は以下の3つ。
- プラズマ撮像装置によって地球の磁気圏プラズマの全体像を、紫外光で撮像。地球出発後からラグランジュ点到達までの8ヶ月以上の長い航行期間を活かす。
- 月ラグランジュ点の周期軌道投入後、月裏面に衝突する小隕石が発する一瞬の光を検知。月面に降ってくる小隕石のサイズや頻度を評価し、将来の月面上の有人活動やインフラに対する脅威を見積もる。
- 地球から月軌道周辺までの空間におけるスペースデブリを評価する。
NEA Scout(マーシャル宇宙飛行センター:アラバマ州ハンツビル)
太陽帆で地球近傍の小惑星に移動し、表面の写真撮影やその他の特性評価を行う。
太陽帆とは太陽光を利用して、太陽から放射される光の粒子を反射することにより、宇宙船の推力を生成する装置。化学ロケットや電気推進と比べ発生する推力は小さいものの、燃料を消費せずに加速が得られる。
地球に近い小惑星の中には、地球に危険を及ぼす可能性がある。さらに地球に近い小惑星の検出数は、今後増加すると予想されている。したがって、その特性を理解することは、衝突の際に引き起こされ得る損害を軽減するための戦略開発に役立つ。
ArgoMoon(イタリア宇宙期間ASI、アルゴテック社:イタリア)
ArgoMoonは、オリオン分離後のICPS(SLSロケットの上段として飛行、エンジンを搭載)の詳細な画像を撮影すること。この操作は、超小型衛星が深宇宙で正確な近接操作を行う能力を実証する。
また、他の小型衛星の展開に関するミッションデータの提供や、小型衛星と地球の間の光通信機能のテストを行う。
Team Miles(フロリダ州タンパ)
Team Milesは、プラズマスラスタを用いた推進力を実証。電気エネルギーで推進剤ガスのイオンを加速することによって推力を得る。推進剤としてイオン化ヨウ素を使用している。
同時に、地球から約 400 万キロ離れた場所からの通信用に、 S バンドで動作するソフトウェア無線をテストする。ソフトウェア無線とは、ハードウェアを改変せず、ソフトウェアを制御することで通信方式を切り替え可能な無線通信である。
フロリダ州タンパに拠点を置く 15 人の市民科学者およびエンジニア ( Fluid and Reason, LLC )からなる非営利グループによって設計および開発された。
さいごに
この記事では、アルテミス計画の最初のミッションであるArtemis Ⅰと、相乗りする10基の超小型衛星について紹介した。
Artemis Ⅰが成功した場合、2024年にArtemis Ⅱが実施、宇宙飛行士が実際にOrionに搭乗し、月を周回する予定。
また早ければその翌年にはArtemis Ⅲが行われ、米国人飛行士が再び月面に降り立つ見込みだ。
今回の打ち上げによって行われるの合計11のミッションは、Artemis Ⅱ,Ⅲの実現に大きく貢献するだろう。