欧州宇宙機関(ESA:European Space Agency)が開発する大型ロケット『Ariane6』の初打ち上げが、日本時間の2024年7月10日午前3時から実施予定だ。
「Ariane6」はESAのロケットシリーズ「Ariane(アリアン)」の最新型で、欧州版のH3ロケットともいえるロケットである。
本記事では、「Ariane6」の開発の背景や特徴、性能について、日本のH3ロケットと比較しながらご紹介します。
「Ariane6」開発の背景
Arianeシリーズの歴史
Arianeシリーズを開発するESAは、1962年に設立の欧州宇宙研究機構(ESRO)と欧州ロケット開発機構(ELDO)を統合して1975年に設立された宇宙機関だ。
創設時は、ベルギー、ドイツ、デンマーク、フランス、イギリス、イタリア、オランダ、スウェーデン、スイス、スペインの 10 か国が加盟。現在では計22か国が参加している。
Ariane1-3 ヨーロッパ独自のロケット誕生
Arianeシリーズの一番初め「Ariane1」の開発計画が始まったのは1973年。
きっかけは、アメリカがフランスとドイツの通信衛星の打ち上げを厳しい条件なしで行うことを拒否したため。この状況が、ヨーロッパが独自の打ち上げロケットを開発する決意を固めたという。
「Ariane1」の初号機の打ち上げは1979年に実施され、成功。
その後、打ち上げる衛星のサイズが大きくなるにつれて、「Ariane1」はより強力な「Ariane2」、そして「Ariane3」に取って代わられるようになり、1989年の最後の「Ariane3」の打ち上げまで、合計24回の打ち上げが成功した。
Ariane4 従来の3倍大型化
次の「Ariane4」は、1988年の初打ち上げから2003年の最終打ち上げまで計113回の打ち上げに成功したロケットである。
高度36,000㎞の静止軌道に遷移できる軌道に2,000~4,300kgの重さの衛星を乗せることが可能で、これは「Ariane3」のほぼ3倍に相当する。
「Ariane4」は稼働期間中、商業衛星打ち上げ市場の50%を獲得し、ヨーロッパが商業打ち上げ分野で十分に優位に立てることを示した。
Ariane5 エンジン改良で更なる巨大化
続く「Ariane5」は25年以上にわたるヨーロッパの主要打ち上げシステムであり、1996年から2023年7月までの間にフランス領ギアナのヨーロッパ宇宙港から117回打ち上げられた。
この大型ロケットは、「Ariane4」の軌道投入能力を2倍以上に高めており、1回の打ち上げで2基の大型通信衛星を周回軌道に乗せたり、非常に大型のペイロードを深宇宙に打ち上げたりすることが可能になった。
「Ariane5」 の派生型には、5G、 5G+、 GS、ES、ECAがある。最も使用されたバージョンは「Ariane5 ECA」で、2002年以降84回打ち上げられた。
商業衛星打ち上げ需要の高まりとAriane6
「Ariane6」の開発が決定したのは2014年。
2010年以降、商業衛星打ち上げ需要が高まる中、SpaceXなど低価格な民間ロケットが活躍し始め、それらに対抗できるロケットが必要だと考えられたのである。
これまで同様、自国の衛星打ち上げが他国に依存しないように自立的な宇宙輸送システムを確立するという目的に加えて、商業衛星打ち上げ需要の高まりに対応し、宇宙輸送市場における競争力の向上を目的にして開発が始められた。
「低コスト」、「高い打ち上げ能力」、そして様々な衛星を様々な軌道に打ち上げ可能な「柔軟性」を提供できるように設計されている。さらに、地球及び宇宙の「持続可能性」の確保にも力が入れられており、例えば以下のような対策が行われている。
- ロケット部品の輸送時にかかる燃料の削減
- 打ち上げ時の騒音を吸収するために使用される水の再利用
- 燃料として使用可能なグリーン水素の開発
- 衛星放出後のロケットを軌道から離脱させ、他の衛星と衝突可能性のない場所へ移動するためのエンジンシステムの開発
「Ariane6」と「H3ロケット」比較
Ariane6とH3の共通点
JAXA(宇宙航空研究開発機構)が開発するH3ロケットは、H-ⅡA / H-ⅡBに替わるロケットとして2014年に開発が開始された日本の主要なロケットである。
「Arian6」と共通しているのは、自立性と国際競争力の確保を主要な目的としている点だ。
「H3ロケット」は商業衛星打ち上げを受注することで一定機数の売り上げを確保し、産業基盤の維持・強化を図る狙いで開発された。
このため、H-ⅡA / H-ⅡBの強みである「高い信頼性」に加え、①競争力のある打ち上げ能力と価格、②射場運用性の改善と希望打ち上げ時期への対応(柔軟性)、③振動の少ない機体の3点が開発仕様に反映されている。
H3ロケットの初号機は2023年3月7日に打ち上げられて失敗したものの、翌年の2月17日に打ち上げられた2号機は成功。
続く3号機も、同年7月1日に打ち上げ成功した。
Ariane6とH3の性能比較
「Ariane6」と「H3ロケット」の性能は、それぞれ以下の表の通り。
「Ariane6」と「H3ロケット」は両者ともエンジンが2段に分かれている2段式ロケットで、固体ロケットブースターにて推進力を補助する。(H3ロケットは固体ブースターが0本の場合もある。)
ロケットのサイズはほぼ同じであるが、打ち上げ能力は「Ariane6」が高く、より重い荷物を宇宙に輸送することができる。
柔軟性に関しては、「Ariane6」は第2段エンジン(2段あるうちの上部のエンジン)に最大4回まで再燃焼できる新規採用の「Vinci」を搭載。複数の衛星を同時に運び、異なる軌道に投入することが可能となった。
そのため、より多くの衛星を同時に運ぶことで各衛星の輸送コストを低減することができると同時に、他の衛星の目的地が別の衛星の目的地から遠い場合でも相乗り可能に。
これにより、衛星の打ち上げ機会を増やし、より迅速な打ち上げができる可能性があるのだ。
一方、「H3ロケット」も相乗り可能で、複数の衛星を別々の軌道に投入できる。
大容量で一気に打ち上げるというよりは、第1段エンジンの数と固体ロケットブースターの数を変えることで計4種類の形式を用意し、衛星の利用用途に合った価格・能力のロケットを提供。
また、機体の設計を共通にすることで打ち上げまでの時間を短縮し、「すぐに打ち上げたい」という利用者の声に応える。
コスト面に関しては、「Ariane6」(重量形態)は「Ariane5」のおよそ30%以上、「H3ロケット」(軽量形態)は「H-ⅡAロケット」のおよそ50%削減。
「Ariane6」は「H3ロケット」と比較して打ち上げ費用がかなり高額のように思えるが、同時に多くの衛星を打ち上げられることを考えると、その分1機あたりの打ち上げコストは低減されるだろう。
さいごに
いかがでしたか。
「Ariane6」、「H3ロケット」はそれぞれ自立性と国際競争力の確保を目的としたロケットであるが、その仕様・戦略は異なる。
それぞれがこれからどのように顧客を獲得していくのか、今後注目していきたい。
「Ariane5」の最終打ち上げから1年。「Ariane6」の初打ち上げは、日本時間の7月10日午前3時に実施される。
今回は、17の衛星や実験装置等が搭載されているとのこと。
午前2時30分からはESAによるライブ配信も行われるので、ぜひご覧いただきたい。