アークエッジ・スペースが衛星姿勢制御システムの国産化開発へ
©Space Connect株式会社

2024年8月9日、株式会社アークエッジ・スペースは、姿勢決定制御サブシステム(ADCS: Attitude Determination and Control Subsystem)について、高い性能と経済性を両立する国産化システムの開発を完了したことを発表した。

ADCSは、人工衛星の姿勢および軌道を決定し、それに基づいて制御するための基幹部品である。

本記事では、ADCSの概要と、同システムがもたらす影響についてご紹介する。

国産化ADCS開発の背景

ADCSの重要性

姿勢決定制御サブシステム「ADCS(Attitude Determination and Control Subsystem)」は、人工衛星の運用において非常に重要だ。

人工衛星は軌道上での精確な姿勢制御が求められ、制御が不適切だと観測装置や通信アンテナの向きが狂い、ミッションの成功に重大な影響を与える可能性がある。

例えば、地球観測衛星では、カメラやセンサーが目標地域に正確に向けられることが必要だ。また、通信衛星では、地上とのリンクを維持するためにアンテナを向け続けることが不可欠である。

このため、ADCSは衛星のミッションの成功率を大きく左右する技術なのだ。

自立性および国際競争力の確保が課題

今回のADCS開発は、2021年度に公募された経済産業省の委託事業「宇宙開発利用推進研究開発(超小型衛星コンステレーション関連要素技術開発)」として進められた。

この事業の目的は、小型衛星のミッションの高度化に伴い高性能な姿勢・軌道制御が求められるのに対して、制御装置は海外製かつ長納期で、ミッションに合わせてカスタマイズできない部品が大半を占めるという課題の解決である。

これに向けて、日本の宇宙活動の自立性および国際競争力確保の観点から小型衛星に関連して戦略的に注力するべき重点技術として、高精度での軌道・姿勢制御が可能な技術開発が求められていた。

アークエッジ・スペースのADCS開発

©株式会社アークエッジ・スペース

アークエッジ・スペース社、取りまとめのもと、セーレン株式会社や三菱プレシジョン株式会社といった日本企業や一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構、東京大学の研究室と連携し、国産のADCSを開発した。

このADCSは、1辺の長さ1㎝の立方体サイズを1Uとすると、3U~12Uの超小型衛星に対応。

3U~6U衛星用の低価格版と、6U~12U衛星用の高精度版の2種類が開発されており、さまざまなミッションの要件に対応できる柔軟性を持っている。

©Space Connect 株式会社アークエッジ・スペースのプレスリリースをもとに作成

国産化ADCSがもたらす影響

日本の宇宙産業に期待できる効果

サプライチェーン強化

今回、アークエッジ・スペースが開発した国産ADCSは、日本の宇宙産業においていくつかの影響をもたらすと考えられる。

まず、この国産ADCSの導入により、日本の宇宙産業におけるサプライチェーンの強化が期待される。

従来、人工衛星の姿勢制御システムは海外からの輸入に依存しており、納期の遅延等のリスクがあった。

しかし、ADCSの国産化により、国内での安定供給が可能となれば、プロジェクトのスケジュール管理が容易になり、ミッションの成功率が向上するだろう。

コスト削減効果

次に、国産化によるコスト削減効果も見逃せない。

輸入品では、輸送費用や関税、さらには為替リスクがコストに影響を与える要因となる。

国産化によりこれらのコストが削減されることで、人工衛星の開発・運用コスト全体が抑えられれば、日本企業がグローバル市場で競争力を持つための価格設定が可能になる。

さらに、国内での生産が促進されることで、日本の宇宙産業全体が活性化し、新たな雇用の創出や関連産業の成長にも寄与することが期待される。

技術優位性の確保

また、技術的優位性の確保も大きな利点だ。

国産のADCSシステムは、日本国内での研究開発と製造が行われるため、技術的なノウハウが国内に蓄積される。

これにより、将来的な改良や新技術の導入が迅速かつ柔軟に行えるようになり、日本の宇宙技術がさらに進化する基盤が整うだろう。

技術力の向上は、国際競争において日本が独自の強みを持つことを可能にし、国際宇宙市場でのリーダーシップを確保するための重要な要素となる。

多様なニーズ対応への柔軟性

さらに、今回のADCSは、多様なミッションニーズに対応する柔軟性を持っており、これも大きな利点だ。

3U~6Uサイズの低価格版と6U~12Uサイズの高精度版という二つのバリエーションが開発されており、衛星のサイズやミッションの要求に応じて最適な選択が可能。

多様な顧客のニーズに応え、特定の市場だけでなく、幅広い用途に対応できる製品を提供することができる。

これもまた、競争力の向上につながるだろう。

宇宙産業における自立性確保

最後に、このADCSの国産化は、日本の宇宙産業における自立性の確保という点でも大きな意義を持つ。

国際的な宇宙開発競争が激化する中で、自国で必要な技術を開発し、供給できる体制を整えることは、国家安全保障や長期的な技術発展において非常に重要だ。

このように、国産化されたADCSは、コスト削減や技術力の向上、柔軟なミッション対応といった多方面で日本の宇宙産業に大きな影響を与えると考えられるのである。

アークエッジ・スペースの事業にも活用

アークエッジ・スペースも、同社の事業に今回のADCSを積極的に活用していくとしている。

同社は、多種類複数の人工衛星生産体制を構築しており、自社でIoT通信、地球観測、海洋観測等、様々な目的に対応した衛星の開発や、衛星または衛星用部品の開発・事業化サポートを行っている。

今回の国産ADCSの開発により、同社の小型衛星の性能・信頼性の向上、低コスト化、サプライチェーンの強靭化等が期待でき、それに伴い、同社のサービスの信頼性向上や低コスト化が期待できるだろう。

株式会社アークエッジ・スペースの超小型衛星が宇宙に放出される様子 (PRTIMESから引用)

さいごに

いかがでしたか。

今回開発された国産ADCSによって、日本の宇宙産業における自立性や国際競争力の向上が期待できる。

アークエッジ・スペースは、この技術を活用して衛星コンステレーションの構築を目指している。

今後もこの技術を基盤に、新たな宇宙ビジネスの可能性を切り開いていくだろう。

参考

経済産業省 HP

アークエッジ・スペース プレスリリース

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