2023年11月2日に開かれた内閣の臨時閣議にて、日本政府はデフレを完全に脱却するための広範な経済対策の一環として、宇宙開発機構(JAXA)に対する大規模な投資計画を正式に承認した。
この計画により「宇宙戦略基金」が新たに創設され、今後10年間で総額1兆円の資金が提供されることになる。
本記事では、今年6月に策定された「宇宙基本計画」を基に、臨時閣議で決定された1兆円の資金支援の背景とその目的について深掘りしている。
宇宙に1兆円の投資、その背景
今回、総額1兆円の資金が宇宙産業に投資される背景は以下の通りだ。
まず政府は、“社会課題を解決する取り組み”を日本経済を成長させるエンジンとして位置づけ、そのための政治的対策・手段を「デフレ完全脱却のための総合経済対策」として総合的にまとめた。
同経済対策の資料によると、日本経済は現状、2023年4月から6月のGDP(国内総生産:国の経済活動の全体的な規模や活動度を示す値)は3四半期連続のプラス成長となっており過去最高水準。30年ぶりとなる高水準の賃上げや企業の投資意欲の高まりなど経済の先行きは明るい。
一方で、国際的な原材料価格の上昇や円安があいまって輸入物価が上昇したことで物価が上昇し、国民の生活を圧迫しているのも確かである。
政府はこの状況を改善するため、少子高齢化、人口減少を始めとする社会課題を解決する取り組み自体を経済成長の足掛かりにし、産業の生産性などを高めて収益を継続的に生み出すことで、物価上昇を十分に超える賃上げが行われる経済を目指すとのこと。
また、輸入物価が上昇したことに起因する物価高への体制を強化することで、国内から海外に移動するお金を減らし、国内で循環する構造へと転換していくとしている。
宇宙産業への期待
この社会課題の解決並びに経済成長のための対策の1つが「宇宙」への投資である。宇宙は市場の拡大が期待されるとともに、安全保障上も重要な領域だ。
宇宙のような成長産業の研究開発に投資し、イノベーションを促進することは経済社会の発展に繋がることである。
また、ロシアによる軍事侵攻、台湾有事、パレスチナ問題等、緊迫する国際情勢の中、宇宙技術は衛星でミサイル探知をするなど、日本の安全保障を守るための重要な手段の1つだ。
つまり、宇宙産業への投資は、安全保障上の課題への取り組みつつ、経済成長が期待できる領域に投資するということだ。
宇宙産業の拡大とJAXAの役割
では、どのように宇宙産業を拡大していくのか。その政策の基となるのが6月に改修された「宇宙基本計画」だ。
宇宙基本計画とは、今後10年間の宇宙政策の方針を決めているもの。「デフレ完全脱却のための総合経済対策」ではこの計画に基づき、宇宙政策を戦略的に強化する取り組みを進めるとしている。
今年度の宇宙基本計画において昨年度から変化した重要な点の1つが宇宙政策を推進するにあたり、JAXAの役割・機能を強化するというものだ。
JAXAはプレイヤーとして先端・基盤技術開発力を強化するだけでなく、ファンディングエージェンシーのような機能を持ち、その目利き力を使って技術開発を適切に支援して日本の宇宙産業を伸ばしていくことが求められているのだ。
今回の宇宙戦略基金は、JAXAがこの新しい役割を担うためのものであり、1兆円を活用して民間企業や大学に資金を供給することで、研究開発や商業化を支援していくのだろう。
さいごに
宇宙戦略基金の狙いは、JAXAの資金供給機能を強化して宇宙産業を発展させることで、安全保障などの社会課題を解決するとともに日本経済を発展させることだと考えられる。
政府はこの資金を活用する際、防衛省等の宇宙分野における取組と連携するとともに、H3ロケットの開発・打上げや衛星コンステレーションの構築、アルテミス計画への参画、次期気象衛星の整備など、宇宙産業を成長産業とする取り組みを一体的に進めるとのこと。
政府とJAXA、そして民間企業が一体となって、この大きなチャレンジに取り組む姿が楽しみである。
この宇宙戦略基金とは、民間企業・大学等による宇宙分野の先端技術開発や技術実証、商業化を複数年度にわたって支援するためのものである。