
宇宙探査ミッションの解説で頻出する「フライバイ」と「スイングバイ」は、いずれも探査機が天体の近くを通過する場面で用いられる用語である。一見すると似た意味に見えるが、指している内容は異なる。
本記事では、両者の言葉の持つ意味の違いについて解説する。
各単語の持つ意味と違い
フライバイとは「近くを通過すること」
フライバイとは、探査機が特定の天体の周回軌道には入らず、その近くを通過する飛行を指す。
この際、対象天体に接近しながら観測やデータ取得が行われることもある。対象天体の周回軌道に入るための大きな減速を必要とせず、限られた燃料で、短時間ながらも近距離からの観測機会を確保できる。
スイングバイとは「重力を利用した軌道制御」
これに対してスイングバイは、天体の重力を利用して探査機の速度や進行方向を変える航法を指す。「重力アシスト」とも呼ばれる。
探査機は天体に接近することで、その重力の影響を受けて軌道を曲げたり、太陽に対する公転速度を変えたりすることができる。これにより、大量の推進剤を消費せずに、より遠くの天体へ向かったり、目的の軌道条件に近づけたりすることが可能になる。
特に、深宇宙探査では探査機が運べる燃料に限りがあるため、スイングバイはミッション成立の鍵を握る重要な技術の一つとなっている。
両者の違い
両者の関係を整理すると、フライバイは「天体の近くを通る」飛行全般を指す広い言葉であり、スイングバイはその通過の中でも「重力で軌道や速度を調整する」ための飛行を指す言葉といえる。
スイングバイはフライバイ(天体近傍通過)の際に行われる軌道制御であり、すべてのスイングバイはフライバイを伴うが、すべてのフライバイがスイングバイに該当するわけではない。


実際のミッションにおける使用例
実際のミッションでは、同じ天体近傍の通過であっても、説明の焦点によって「フライバイ」と「スイングバイ」が使い分けられている。
たとえばispaceのMission 2では、月表面から高度約8,400kmの地点を通過する飛行について、同社自身が「月フライバイ」という表現を用いている。ispaceはこれを、民間企業による商業用の月着陸船としては史上初の成功と位置づけている。
この飛行は月の重力を利用して軌道を調整し、次の深宇宙航行フェーズへ移行する役割も担っており、スイングバイ的な側面もあわせ持っているが、ここでは、月近傍を高精度で通過する飛行そのものに重きが置かれているとみられる。
一方、JAXAの水星磁気圏探査機「みお」では、水星到達までの過程で行われる重力を利用した軌道調整について、「スイングバイ」という表現が用いられている。
ここでは、天体近傍を通過する飛行そのものよりも、その通過を利用して速度や軌道を調整する点に重きが置かれている。水星へ向かうには大きな減速が必要になるため、「みお」は地球や金星、水星の重力を活用しながら、燃料消費を抑えて目的地への到達を目指している。
さいごに
フライバイとスイングバイは、似た場面で使われる一方で、注目しているポイントが異なる。
両者の違いを整理して理解することで、各ミッションが「なぜその軌道を選んでいるのか」を読み解きやすくなる。今後、民間主導の深宇宙探査や輸送ミッションが増加する中で、これらの概念はますます重要性を増していくと考えられる。
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参考
高校数学・物理で学ぶスイングバイ軌道の作り方(JAXA, 2026-04-15閲覧)
「みお」ミッションページ(JAXA, 2026-04-15閲覧)
ispace、ミッション2マイルストーンSuccess 5「月フライバイ」に成功!(ispace, 2026-04-15閲覧)









