
SpaceXが開発する超巨大ロケット「Starship(スターシップ)」の第8回打ち上げ試験が、2025年3月4日午前8時30 分(日本時間)に予定されている。(2025/3/3 7:00)
本記事では、前回の試験結果を振り返り、特に上段ステージ「Starship」の空中分解に至った原因を詳しく解説するとともに、今回の飛行試験の目的やミッション内容についてご紹介する。
目次
Starshipとは
SpaceXが開発している超大型ロケット「Starship」は、人や貨物を地球周回軌道や月、火星、さらにはその先まで運ぶために設計された、史上最大のロケットだ。
下段の「Super Heavy(スーパーヘビー)」ブースターと上段の「Starship」宇宙船で構成されている。
大きな特徴は以下の3つ。
- 史上最大の大きさと打ち上げ能力
- 捨てずに繰り返し使える完全再利用型
- 打ち上げスパンの短さ
まず、Starshipは全長約121メートルを誇り、およそ100~150tものペイロードを運ぶ能力を持つ。
最大100人の乗組員と貨物を輸送可能で、月面基地の建設や火星探査のため、また地球上のどの場所でも1時間以内で移動するための輸送手段として期待されている。
次に、従来の一般的なロケットは一度打ち上げられるとその多くの部分が使い捨てられて再び使うことはないが、Starshipロケットはブースター、宇宙船ともに再利用可能。機体を繰り返し使用することで打ち上げコストの大幅な削減を目指している。
最後に、一度使用して返ってきた機体をすぐに点検・打ち上げ準備を完了させて再度打ち上げる。飛行機のように着陸・打ち上げ(離陸)をスムーズに行うことで、高頻度に人や貨物を宇宙または地球上のどこかに輸送する。
前回(第7回)の試験結果
試験結果概要
Starshipの第7回打ち上げ試験では、上段のStarship宇宙船には、前回の飛行試験で以下のように大幅なアップグレードが施され、飛行の信頼性と性能向上が図られた。
- 前方フラップの改良:機体の前方にあるフラップ(翼のような部分)について、再突入時の熱負荷を大幅に軽減するため、構造を簡素化するとともに保護タイルを強化
- 推進システムの再設計:より長時間の飛行を可能とするため、推進剤の容量を従来よりも25%増加
- アビオニクス(電子制御システム)の再設計:機体の発射場帰還など、より複雑なミッションに対応するための機能強化・冗長性向上を実施
また、下段のSuper Heavyブースターには、5回目の打ち上げ試験で回収したブースターのエンジン「Raptor」を初めて再使用していた。
打ち上げ当日はロケット発射後、序盤は順調に上昇。上段のStarship宇宙船と下段のSuper Heavyブースターの分離にも成功した。
その後、Super Heavyブースターは再着陸を行うためにエンジンを再点火させて降下を開始し、徐々に減速しながら機体はキャッチタワーのアームへと接近。そして、SpaceXは第5回打ち上げ試験に続き、史上2回目となるSuper Heavyブースターの空中キャッチを成功させた。
一方、上段のStarship宇宙船はブースターとの分離後、計画通りの軌道に進んでいたが、約2分後に機体後部で閃光が発生。
その後、5基のエンジンは停止し、地上との通信も途絶。最終的に、機体は空中で分解したことが確認された。
空中分解の原因
前回の打ち上げ試験における機体の空中分解について、SpaceXはその最も有力な原因は飛行中に発生した異常な共振であると説明している。
ロケットの打ち上げ時に発生する共振とは、ロケットの構造や内部の流体が特定の周波数で振動し、その振動が増幅される現象を指す。
前回の打ち上げ試験では、その共振が地上試験時の数倍もの強度で発生し、推進システムのハードウェアに過度な負荷を与えたとのこと。
その結果、「アティック」と呼ばれる液体酸素タンク底部と後部耐熱シールドの間の非加圧エリアに推進剤が漏洩。
これにより、漏洩した推進剤が燃焼して火災が発生し、アティックの換気能力を超えて燃焼が持続したことで機体の空中破壊に至った。
なお、この時Starshipの自律飛行安全システム(AFSS)は正常に動作していたものの、破壊指令が作動する前に通信接続が途絶していたという。
SpaceXは、同社ホームページにて、Starshipの機体の破片は全て計画されていた「デブリ対応エリア」内に落下し、有害物質は含まれておらず、海洋生物や水質への重大な影響もないと結論付けている。
また、同社はその後、タークス・カイコス諸島およびイギリス政府と連携して機体破片の回収・清掃活動を実施しており、また、米連邦航空局(FAA)監督のもと調査を主導するとともに、次回の打ち上げ試験に向けてFAAとの協議を進めたとしている。
第8回打ち上げ試験のミッション
SpaceXは第7回飛行試験で発生した事故に関する調査を完了しており、上段であるStarship宇宙船の信頼性向上のため、複数のハードウェアおよび運用システムを変更した。
また、今回の飛行試験ではSuper Heavyブースターの空中キャッチに加え、これまで達成できなかった目標にも挑戦する予定であるという。
第7回試験を踏まえての改良点
第7回打ち上げ試験後、SpaceXは異常な共振現象を再現し、その対策を講じることを目的にStarship宇宙船の60秒間の燃焼試験を実施。複数のエンジン推力値および、Raptorエンジンの燃料供給システムにおける3種類の異なるハードウェア構成を検証したという。
この試験結果をもとに、第8回打ち上げ試験ではエンジンを改良。また、爆発が起こったアティック部分についても改良を施した。

第8回目試験 ミッションの注目ポイント
第8回目打ち上げ試験では、上段のStarship宇宙船に上記の改良を施したうえで、前回の試験で達成できなかった目標にも挑戦する。
注目ポイントは以下の3つ。
- Starship初となるペイロード展開試験
- Starship宇宙船の大気圏再突入および発射場への帰還技術の実証
- Super Heavyブースターの空中キャッチ
まず、Starship宇宙船はSpaceXが開発するStarlink衛星と同じサイズのシミュレーター衛星4機を軌道上で放出する。シミュレーター衛星はStarshipと同じ弾道軌道上を飛行し、大気圏再突入時に燃え尽きる予定だ。
このミッションは前回の打ち上げ試験でも実施予定であったが、機体が目標地点に達する前に空中分解したため、今回初めての挑戦となる。
次に、Starship宇宙船は今後の打ち上げにおける空中キャッチ実現に向けて、いくつかの実験を実施する。例えば、一部の耐熱タイルを意図的に取り外し、機体の熱耐性をテストするほか、複数の耐熱タイルを搭載してその熱耐性などを評価。
また、キャッチタワー「chopsticks」搭載された複数のレーダーセンサーを再びテストし、帰還機の測定精度向上を目指す。
最後に、Super Heavyブースターについては、発射場での空中キャッチに再度挑戦する予定だ。
さいごに
いかがでしたか。
Starshipの第8回打ち上げ試験は、早ければ2025年3月4日(火)午前8時30分にも実施される予定である。(2025/3/3 7:00)
ライブ中継は打ち上げの約40分前にスタートする予定であり、SpaceXのHPおよび公式Xアカウントから視聴可能。
毎回世界中の注目を集めるスターシップの打ち上げ。今回の飛行試験はどのような成果をもたらすのか、引き続き注目だ。