2024年11月14日、株式会社Synspectiveは東京証券取引所グロース市場への新規上場が承認されたと発表した。本記事では、Synspectiveの事業内容と将来展望について、同業他社のQPS研究所や海外企業と比較しながら詳しく解説します。
Synspectiveとは
企業概要
Synspectiveは、小型SAR衛星「StriX」の開発・製造・運用を行い、取得したSARデータの販売とそのデータ解析によるソリューション提供を行う企業。
「StriX」は、政府主導の革新的研究開発推進プログラム(ImPACTプログラム)[※1]の成果を応用して開発された独自の衛星である。このプログラムでは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、東京大学、東京工業大学、慶應義塾大学などと連携し、高性能・低コスト・製造容易性を重視した研究開発が行われ、小型SAR衛星開発に関するプログラムは2015年度から2019年度まで実施された。
Synspectiveは2018年2月に創業され、同年9月にシンガポールにマーケティング拠点となる子会社を設立。2020年12月には小型SAR衛星の実証初号機の打ち上げに成功し、翌年2月には民間企業として日本初となる小型SAR衛星画像のデータ取得に成功した。
[※1] 産業や社会のあり方に大きな変革をもたらす革新的な科学技術イノベーションの創出を目指し、ハイリスク・ハイインパクトな挑戦的研究開発を推進することを目的として創設されたプログラム小型SAR衛星の特徴
「StriX」のようなSAR衛星は、自ら電波を地表に向かって照射し、その反射波を取得することで地球を観測する。
同じ地球観測衛星である光学衛星とは、下図のような違いがある
光学衛星は宇宙から写真を撮影するため直感的に理解しやすく、Google Earthなど様々なウェブサービスで広く利用されている。
一方、SAR衛星は雲や明るさに影響されずデータ取得が可能で、地形や構造物の形状・物性把握に役立つ情報を含む。
SAR衛星の中でも「StriX」は、従来の大型SAR衛星と同等以上の撮像能力を維持しつつ、約1/10の小型化を実現。この小型化と搭載機器の開発・既製品の活用により、従来と比べて製造・打ち上げ費用を約1/20まで削減できるようになる。
これにより、従来は高コストで実現困難だった多数機による衛星コンステレーションを形成し、地球全体を対象とした多地点での高頻度観測を実現することが可能となるのだ。
ビジネスモデルと事業価値
Synspectiveのビジネスモデルは、主に①データ販売と②ソリューション提供の2つに分類される。
データ販売
データ販売は、同社グループの小型SAR衛星「StriX」シリーズから取得したデータを提供するサービスだ。このサービスにより、主に地形や対象物の形状、およびその変化を把握することが可能となる。
SAR画像分析には高度な専門性と知識が要求されるため、この能力を有する各国政府(特に防衛関連省庁)が主要な顧客となる。安全保障、防災・減災、インフラ・国土開発などの公共需要が中心を占める。
ソリューション提供
一方、ソリューション提供サービスは、「StriX」のコンステレーションで取得したデータを自動で解析。その結果を、顧客が業務上即座に活用できる情報として提供する。
上述のようにSAR画像分析には高度な技術が要求されるが、同社はSAR衛星データ解析に関する専門的知識と技術を持つチームを擁することで、通常SARデータの分析能力を持たない顧客に対しても、衛星データの価値を効果的に提供可能となるのだ。
競合企業と今後の戦略
小型SAR衛星の需要と競合企業
SAR衛星データの主な需要は防衛領域にある。ロシアのウクライナ侵攻等でSAR衛星の軍事活用は注目されており、防衛領域の需要は日々世界で拡大していくと予測できる。
また現在、Synspectiveを含む主な小型SAR衛星事業者は世界に5社程度であるが、同社によるとSAR衛星の小型化の技術的難易度の高さ、エンジニアの希少性、衛星開発に係る資本と時間などが障壁となり、新規プレイヤーが参入することは難しい。
Synspectiveは「SAR衛星データの希少性が高いにも関わらず供給力が限定的であることがSAR衛星事業の市場における特徴だ」と見ており、競合状況には至らず、限定的な競争状態が続くと想定している。
また、同社と海外の小型SAR衛星事業者の特徴は以下の表の通りとなっている。
海外では、アメリカのCaplla Space、Umbra LabとフィンランドのICEYEが事業を展開しており、それぞれ解像度25㎝の画像取得や、動画の撮影、カラー画像の取得に成功。テイラー地理空間研究所(TGI)等が発表した「2024年商用リモートセンシング世界ランキング」において、Xバンドを使用したSAR衛星のデータ品質の部門では1位がUmbra、2位がCapella Space、3位がICEYEとなっている。
技術においては海外と比較して多少遅れを取っているものの、SAR衛星画像の供給の少なさから、Synspectiveは特に日本における防衛市場の規模と成長を鑑みれば、日本に本社を構える企業は当該市場に対して優位に事業展開を進められると予測している。
Synspectiveの戦略
短期戦略
同社によると、まず短期では、防衛需要を軸とする日本政府へのデータ販売、並びに政府補助金収入を活かし、安定した収益基盤の構築を目指すという。
現在、日本政府はSARデータを同社やQPS研究所、そして海外の企業からも購入している。例えば、SpaceNewsによると、Capella SpaceのSAR衛星データの顧客は第1位はアメリカ政府であるが、第2位は日本政府であるとのこと。
Synspectiveとしては早急に開発を進め、撮像頻度や分解能の高さで日本政府の需要に応えていくことが、まずは重要となるだろう。
同社は今年、衛星の量産に向けて新拠点の運用を開始しており、年間12機の生産体制を目指す。国内ではほぼ同時期にQPS研究所も新拠点を設立しており、同社は年間10機の生産体制を目指している。
またSynspectiveは、この先のステージで必要となる、海外展開、ソリューション開発についても平行して投資していく方針だ。
同社は設立当初より、グローバル市場において優位性のある事業展開をすべく、シンガポールにビジネス拠点を開設し、アジアを中心としたビジネス開発を推進。2024年10月時点に おいて、北米・ヨーロッパ・中央アジア・インド・東南アジア・オセアニアと世界各国で日本を含む計25の国や地域(31パートナー)と提携を締結。
ソリューション開発における他の企業の状況としては、QPS研究所が九州電力や東京海上日動火災保険など国内の民間企業との実証研究を進めており、海外でもICEYEやCapella Spaceが保険や防衛など様々な分野の企業と提携している。
中期~長期戦略
続く中期では、パートナー提携を活用して、アジアを中心に海外政府へのデータ販売を拡大していくとともに、 30機のコンステレーションにより1時間以内にデータと解析結果を提供できるデータ・ソリューションの販売体制を整える。
一度に多くの場所のデータや複数の解析結果を提供する事により、民間事業向けの ソリューションビジネスを立ち上げることを目指しているという。
そして長期では、コンステレーションを運用するうえで、本来は余剰となる、データ提供予定ではない地域の衛星画像データをソリューション提供に有効活用することで、高い利益率を目指す。
種々の自動解析技術を広く横展開し、民間市場として起点となるインフラ開発・保守や資源エネルギーから、金融・保険やユーティリティといった顧客を主なターゲットとして販売先を広げることを目指しているのだ。
さいごに
いかがでしたか。
Synspectiveは、2024年12月19日に東証グロース市場に上場する予定である。調達資金を活用し、人材採用や研究開発、設備に投資することでSAR衛星の量産体制の強化が期待できる。また上場企業としての信頼性が高まることで、国内外の政府機関や民間企業との取引拡大も見込まれるだろう。SAR衛星は、軍事活動の偵察など防衛面だけでなく、鉱山現場における地質構造変化の追跡や災害時における保険対応など、様々な分野で活躍する可能性を秘めている。
Synspectiveは、日本における小型SAR衛星のリーディングカンパニーだ。世界的にも成長著しいSAR衛星市場において、両社が今後どのような進化を遂げるのか、引き続き注目していきたい。
また、両社は現在、人材も募集中である。興味のある方はぜひこちらからご相談いただきたい。