国連衛星センター(UNOSAT)は、様々な国連機関と連携して、大規模紛争で甚大な被害が出ているガザ地区の被害状況の分析に衛星データを活用している。
本記事では、紛争地域の状況把握や復興への衛星データの活用事例、データ分析技術の詳細について紹介する。
目次
紛争地での衛星データの活用
被害状況の把握
国連の衛星センターであるUNOSATは、国連の基金やプログラム、専門機関に衛星分析や衛星技術にまつわる能力開発を提供するとともに、衛星データ分析により加盟国を支援する機関である。
世界各地で発生する紛争の際も、衛星画像から被害状況を分析して、支援や復旧のためのデータを提供する。
この際、同機関が主に用いているのは光学衛星の画像である。光学衛星は、可視光を利用して地表の様子を撮影するもので、以下のような画像を取得可能だ。
光学衛星の画像は人間の目で見た景色に近く、建物の倒壊やインフラの損壊を感覚的に把握できる。
UNOSATのサービスでは、主にMaxar Technologies社の「WorldView」やAirbus社の「Pleiades Neo」といった衛星の画像を使用。
これらの衛星は、約30cm~50㎝という高解像度で撮影が可能で、地上の小さな物体や細部まで鮮明に観測することができる。
例えば、車の大きさまでも見分けることができるため、被害の詳細な評価が可能となる。
また、WorldViewシリーズでは1日あたり最大15回、Pleiades Neoシリーズでは2回以上、同じ地域を撮影可能であり、この2種類の衛星だけでもガザ地区のような狭いエリアでも頻繁に撮影できる。
この頻度の高さにより、変化をリアルタイムで捉え、迅速な対応が可能となるのだ。
衛星を使用するメリット
紛争地域における衛星データの利用には以下のような様々な利点がある。
さらに、AI技術を活用すれば、自動的に変化点や被害状況を検出し、迅速に被害評価をサポートすることができる。
一方、航空写真やドローンによる撮影は、入域自体が困難な場所では安全性や撮影の難しさが課題となる。その点、衛星データはリスクを伴わずに広範囲を観測できるため、紛争地域では特に有効な手段といえるだろう。
また、衛星データと地上から得られるデータを組み合わせることで、より詳細で信頼性の高い状況把握が可能となり、支援活動の精度を向上させることができるのだ。
ガザ地区の紛争被害分析
UNOSATは、パレスチナ問題の舞台となっており昨年10月からの紛争で甚大な被害が出ているガザ地区にも、様々な国連機関と連携しながら衛星データ分析を行い、重要なデータを提供している。
ガザ地区の衛星データ分析の例としては、以下のようなものがある。
農地や作物の被害分析
国連食糧農業機関(FAO)がUNOSATと協力して実施した衛星データ分析により、ガザ地区の農地や農業インフラへの被害が拡大していることが把握されている。
農地に関しては、2024年9月1日時点で、ガザの農地の約7割が被害を受けており、同年2月時には5割未満であった被害に比べ、被害面積が拡大したことが確認された。
また、衛星データと既存データの組み合わせにより各種類の被害割合も判別することが可能であり、具体的には、果樹園やその他樹木の71.2%、作物の67.1%、野菜の58.5%が被害を受けているといった種目別の被害も把握にも役立っている。
これらの情報は、例えば光学衛星画像を用いて正規化植生指数(NDVI)分析を行い、その結果を異なる時期で比較することで得ることができる。
NDVIとは、衛星や航空機などから取得されたリモートセンシングデータを用いて、地表の植生の密度や健康状態を定量的に評価するために計算される指標のことを指す。
主に植物の光の反射特性(特に可視光と近赤外線の波長)を利用して、植生の状態を判断するのだ。
その他にも、ガザ市の港状況や漁船の破壊隻数、家畜の被害数やその種別など、衛星データを活用した分析からは多くの情報が得られ、食料物資支給や救助支援のための経路把握などに役立てられている。
建物の倒壊状況の被害分析
国連人間居住計画(UN-HABITAT)と国連環境計画(UNEP)は、国連衛星センター(UNOSAT)が提供する衛星画像分析を使用して、ガザ地区での建物の破壊についても評価を行っている。
2024年7月6日の衛星画像と2023年5月の衛星画像を比較した結果、ガザ地区では、[maker]同地域の全建物の約63%[/maker]にあたる15万棟以上の建物が被害を受けていることが明らかになった。
また、この被害を受けた15万棟のうち30%が破壊され、12%が深刻な被害、36%が中程度の被害、20%が被害の可能性があるとされた。
これらの情報は、2つの時期の光学衛星画像を比較することで取得できる。
解像度30㎝の光学衛星画像を用いることで、被害状況の段階までも視覚的に判断することが可能なのだ。
復興に向けた衛星データ活用
復旧に向けた産業評価
国連工業開発機関 (UNIDO) は産業施設への被害状況を把握し、UNIDOが戦略的な復旧活動を計画するために、UNOSATの協力のもと、2024年1月から6月にかけてガザ地区の産業およびビジネスインフラへの被害を評価した。
UNOSATは高解像度の衛星画像を活用し、ガザ全域にわたる363平方キロメートルの広大な地域を詳細に分析。
これらの分析により以下のような成果が達成された。
状況把握とデータマップの提供
パレスチナ占領地域の国連人道問題調整事務所(OCHA OPT)は、2023年10月7日以降のガザ紛争の激化に伴い緊急マッピングサービスを開始。
この取り組みでは、ガザの現状を把握し、支援活動を計画するために、衛星画像を活用したUNOSAT(国連衛星センター)のデータが重要な役割を果たしている。
具体的には、以下のような成果を果たした。
このサービスはガザで活動するさまざまな支援組織で共通に活用され、より優れた調整を促進。より一貫性があり効率的な全体的な対応につながったという。
さいごに
いかがでしたか。
ガザ地区の被害が深刻化する中、衛星データによる可視化は、状況を客観的かつ具体的に示す重要な手段となっている。
今後の支援を効果的に進めるためには、ガザへのアクセス改善に加え、農業や工業、医療等インフラの再建を優先する取り組みが不可欠だ。また、現地のニーズを正確に把握し、支援の効果を最大化するためには、衛星データを活用した情報収集と分析が重要となる。
UNOSATは、「紛争の影響を受ける地域での支援活動を支援するために、正確でタイムリーな情報を提供することに引き続き尽力しています。衛星画像に基づく分析は、被害の範囲を評価し、緊急救援活動を導くための重要なツールとして役立ちます。」と述べている。
衛星データ技術のさらなる向上が、紛争地域や被災地の復旧への大きな一歩につながるだろう。