2024年10月1日、衛星データ解析システムの開発を手がける株式会社スペースシフトが、トヨタ自動車株式会社と衛星データや車の走行データを活用した事業の検討を開始し、覚書を締結したことを発表した。
両社はそれぞれの強みを活かした共同開発によって、災害時における被害状況の解析精度向上に成功している。
本記事では、衛星×車データがどのように社会で役立つのかをご紹介する。
スペースシフトの衛星データ解析事業
スペースシフトはAI、人工衛星、リモートセンシングの専門家を中核に、従来は解析が難しいとされてきた「SAR(合成開口レーダ)衛星」のデータ解析技術を開発する企業である。
SAR衛星とは、衛星自ら電波を照射することによってその反射情報から地表面を観測する衛星で、時間帯や天候に左右されずに地上の様子を24時間365日観測することが可能。常に同じ条件で対象物を撮影できるため、対象物の変化を検出しやすいという特徴を持つ。
スペースシフトは、このSAR衛星のデータ解析精度を向上させることに加えて、光学衛星や地上センサーと柔軟に組み合わせることで地上のあらゆる変化を検出する技術を開発。
独自開発したAIアルゴリズムによりこれらのデータを自動的に解析することで、迅速かつ精度の高い情報を抽出している。
また、自社で衛星を保有していないからこそ顧客の要望に適した衛星データを世界中から柔軟かつ広範に選定・解析することが可能となっており、課題解決に資する情報を提供できるのが強みとなっている。
スペースシフトによる浸水被害の解析
スペースシフトはSAR衛星画像解析技術によって新規建物検知や農業モニタリング、船舶検知など様々なサービスを展開している。その中で、今回注目するのが「災害モニタリング」だ。
近年、台風や集中豪雨などによる被害が増加しており、災害対策は政府や自治体、企業等にとって重要な課題となっている。SAR衛星は荒天時でも地球上の対象物を観測可能であるため、災害状況の把握に欠かせないツールとして期待が高い。
このような背景の中、スペースシフトは、独自に開発したAIアルゴリズムにより、豪雨などにより発生した洪水の範囲や深さをSAR衛星データから自動的に推定する技術を確立した。
現在のSAR衛星の機数やデータのみでは撮像頻度等に制約があり課題も残されているが、この課題は地上のデータと組み合わせてより高精度な解析を行うことで解決可能だ。
例えば、株式会社JX通信社のSNS情報解析技術と組み合わせることで、SNSの投稿に含まれる画像や位置情報から特定の地点における浸水状況を分析して衛星データの解析情報に補完し、被害範囲を広範囲に高精度に推定することを可能にする技術もその一つだ。
スペースシフトとトヨタの連携
スペースシフトは災害モニタリング技術に関してトヨタ自動車とも連携し、トヨタ自動車が保有する車のプローブ情報と衛星データの解析結果を組み合わせた共同開発を実施してきた。
トヨタのデータ利活用の取り組み
車のプローブ情報とは車の位置情報、速度、走行距離、エンジンの状態、アクセルやブレーキの操作状況など、車の運行に関連する多岐にわたる情報のことを指す。
トヨタ自動車は、インターネットに接続しているコネクティッドサービス利用車両から、顧客の同意を得たうえでこれらのプローブ情報を収集。
混雑状況に対応した最適なルート案内や車の異常管理等、顧客のモビリティライフを充実させるサービスに役立てている。
また一方で、保険会社や自治体、タクシー会社など他産業にも情報を共有するなどし、人々の暮らしをより便利にしたり、様々な社会課題を解決したりする「いい町・いい社会」づくりにも車のデータを活用。
トヨタ自動車は全ての車をコネクティッド化していくことを宣言しており、双方におけるデータ活用の取り組みを促進しているのだ。
浸水・冠水範囲の解析精度アップに成功!
スペースシフトとトヨタ自動車の共同開発では、SAR衛星解析技術によって広範囲の浸水・非浸水エリアを自動で検出すると同時に、車の通行実績データや標高データ等をもとに同様のエリアを高頻度かつ詳細に判定した。
その結果、被害状況の把握が難しい時間帯・場所における状況把握能力の向上と、SAR衛星での検出精度が難しい住宅地等のエリアでの精度向上の両方を達成。
広域における解析に優れる衛星データと、よりリアルタイム性があり精度面で優れる車データ解析結果の組み合わせが補完関係として利用できることを実証した。
将来は最適ルート情報の向上や自動運転にも
スペースシフトとトヨタ自動車は、衛星データと車両データを組み合わせることで今後さらなる解析精度や情報提供速度の向上を目指し、5年間の覚書を締結することで合意。
これを契機に、両社は衛星データ解析技術とプローブ情報を活用した更なる事業連携を進めていく方針となっている。
これまで両社の共同開発において注力していた災害分野では、損害保険業務やインフラ管理などに関わる企業や自治体向けに情報提供することで、災害時の安全な避難経路の提示、災害復旧支援にあたる際の計画への活用、都市のレジリエンス強化等への貢献を目指す。
また、災害分野に留まらず、道路の交通量や駐車場のモニタリングによるドライバーへの最適ルート情報の提供、自動運転の普及における安全な車両走行への貢献など、幅広い産業およびユーザーへの展開への検討を予定。
両社が保有するデータおよび解析技術を組み合わせることで、新たなソリューションビジネスの開発や事業価値の創出を行い、様々な社会課題に共に挑んでいくとしている。
さいごに
いかがでしたか。
スペースシフトとトヨタ自動車が取り組む衛星データと車データの連携は、災害対応だけでなく、私たちの日常生活にも大きな影響を与える可能性がある。
災害時の安全な避難ルートの提示や、未来の自動運転技術への応用など、これからの技術革新がどのように私たちの生活を変えるかますます期待が高まる。
このような最先端の技術が、社会課題の解決や快適な暮らしの実現にどのように役立つのか、今後も注目していきたい。
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