2023年10月14日、気球による宇宙遊覧の実現を目指す岩谷技研は北海道南富良野町にて有人飛行試験を行い、最大到達高度10,669mの成層圏に到達したと発表した。
成層圏まで人を運ぶことができる有人気球の開発・運用、さらには低圧、低温、無酸素の環境下でも機能する気密キャビンや生命維持装置を開発した企業は、国内では同社が初となる。
岩谷技研が初提供する宇宙遊覧体験サービスはすでにチケット販売を終了。今回の有人飛行試験の成功は大きく、宇宙遊覧サービスの実現は近いだろう。
とはいえ、気球を利用した宇宙旅行の安全性については疑問が残る。今回は、その点について調査した。
岩谷技研の気球による宇宙遊覧
まず、同社が提供する宇宙遊覧サービスの内容を紹介する。
今年2月に募集を開始した第一回目の宇宙遊覧サービスでは、申込者は一名ずつ、パイロットとともに気球に搭乗する。
最適な条件での打ち上げを実施するため天候等を考慮し、搭乗者は打ち上げ地に1週間程度滞在。
この期間中、打ち上げ場所周辺での旅行を楽しみながら、岩谷技研本社で非常時のパラシュートや安全装備の使い方、フライト中の動作など必要な講習を受講。そして気象条件の整ったタイミングで宇宙遊覧の旅に出発する。
出発後、搭乗者は2時間かけて眼下に広がる地球の景色を楽しみながらゆっくりと上昇。その後、上空25-30kmの成層圏”Near Space”を約1時間飛行し、地球の丸い姿や星々を鑑賞する。
飛行終了後は1時間かけてゆっくりと海上まで降下し、船で地上に戻るという流れだ。
飛行中の揺れは最大で大型クルーズ船と同程度のものとのこと。また重力の大きさは地上とほぼ変わらないため、軽食などを持ち込むことも可能となっている。
今回は一人2,400万円であったが、将来的には100万円代でのサービス提供を計画しているとのことだ。
岩谷技研の気球による宇宙遊覧の安全性
同社は気球やキャビンに関する12種類の特許技術を包括的に取得。その中で安全面に対しても様々な技術でクオリティを保っている。
特許技術を使用した気密キャビン
搭乗するキャビンには安全で快適な宇宙遊覧を可能にするために骨格設計や機密構造に数々の特許技術を使用。
機内の気圧変化は旅客機よりも小さく、飛行時の振動や揺れは新幹線より小さいという。さらに、外部の気温が-60℃でも、キャビンの中は大きな温度変化もないとのことだ。
安定した実績
気球は普段の乗り物と同じくらい高い安全性を持っていると言われている。
NASA・ロシアの過去データおよび警視庁統計情報によると、100回運航して一度も事故を起こさない確率はロケットで4.8%、自動車で99.999%、気球は99.9992%。
ガスの浮力で上昇するため、急な墜落や大破の危険性がない構造なのだ。
岩谷技研ではこれまで国内最多である300回以上の打ち上げ試験を実施。その成功実績は100%となっている。
万が一にも対応する4重の安全設計
安全な乗り物とはいえ万が一にも対応できるよう、同社は特許技術を含む4重の安全装置を実装。
① ガスを抜かない気球
一般的に気球は中のガスを放出することで上空からの降下を行う。岩谷技研はそのような下降時もガスの放出を抑える構造で、一定の浮力を保ち続ける。
これにより降下のスピードを抑え、安全な降下や着陸ができると考えられる。
② パラシュート変形気球
順調に下降ができないなどのトラブル時には、気球を潰すことでガスを早く抜くという特許技術を開発。
ガスが一定以上排気されると自動的に気球がパラシュート状に変形し、着地または着水時の衝撃を緩和することができる。
③ キャビン用パラシュート
②で気球がパラシュート状にならないなど、気球の機能に万が一が起こった際、キャビン搭載のパラシュートを活用可能。
④ 乗員用パラシュート
緊急脱出用に乗員用のパラシュートも備えている。
このように、岩谷技研の気球はあらゆる事態に備えて着地方法の幅が広くなっており、安全度が高いものとなっている。
また、同社の気球は海だけでなく陸に着陸することも可能。
例えば急に海が荒れ始めたときに陸に着陸するなど、着地場所の選択肢の幅を広く持たせることができるのだ。
さいごに
いかがでしたか。
岩谷技研の取り組みにより、宇宙の景色を安全に楽しむことが現実のものとなりつつある。
ロケットで宇宙旅行に行く場合は数千万円~数億円が必要であるが、同社は100万円。これにより、我々にとって宇宙は身近な存在になっていくのではないだろうか。
岩谷技研のHPによると、同社は今後41mの気球で第一期の有人飛行サービスを行った後、77m級の気球工場を建設し6人乗りの気球を打ち上げていく予定だ。
同社の今後の活躍に注目である。