
2026年1月16日、株式会社ispace(以下、ispace)は、宇宙戦略基金事業第二期において、「月極域における高精度着陸技術」の実施機関として採択されたことを発表した。
本採択により、ispaceは最長5年程度で最大200億円を上限とする支援を受け、2029年の高精度月面着陸を目指し、ミッション6の月着陸船(ランダー)開発を開始する。
本記事では、ispaceのミッション計画を整理したうえで、今回の事業における3つの注目ポイントを解説する。
目次
ミッション6までの開発計画
ispaceはこれまで、経済産業省によるSBIR補助金を活用し、2028年打ち上げ予定のミッション4に向けて、シリーズ3ランダー(仮称)の開発を進めてきた。 同時に、月極域を想定した高精度着陸技術の検討も先行して実施している。
今回の採択を受け、ispaceはミッション4で使用するシリーズ3ランダーを発展させた機体を開発し、2029年打ち上げ予定のミッション6を通じて、科学的・経済的価値の高い月南極近傍への安定的な高精度着陸技術の確立を目指す。

ミッション6の注目ポイント
1|月南極近傍への高精度着陸
月南極近傍には、水資源が存在する可能性が高いとされており、将来的には深宇宙探査や地球帰還に向けた宇宙機の推進燃料などへの活用が期待されている。
一方で、月南極近傍は月面の中でも特に着陸難易度が高い地域として知られている。その理由の一つが地形だ。南極周辺は傾斜や段差、岩が多く、安全な着陸地点を見極めることが難しい。さらに、太陽高度が極めて低いため影が長く伸び、カメラによる地形認識が困難になる点も、着陸精度を大きく左右する要因となる。
こういった背景から、ispaceは月南極における水資源探査を見据え、その実現に必要な技術として高精度着陸技術の確立に取り組む。
加えて、こうした技術は南極にとどまらず月面の多様な地形・地点への高精度着陸にも応用できると考えられている。例えば、中緯度に存在する「縦孔(Lunar Pit)」と呼ばれる地下空洞は、将来的な居住空間や地下資源の観点から注目されており、その周辺への高精度着陸技術は、新たな探査や開発の広がりにつながる可能性がある。
2|「越夜」を見据えた長期運用技術を開発
ランダーの長期運用技術の実現にも取り組む。過去に実施された、ミッション1およびミッション2では、ランダーの活動は太陽光が当たる月の昼の時間帯(=約14日間)に限定されていた。
月の夜は太陽光が一切当たらないため、月面温度が約マイナス170度以下まで低下するとされており、機器の動作や電力・熱の維持が極めて難しくなる。このため、月面で長期間にわたり継続的な探査や利用を行うには、昼夜をまたいだ運用、いわゆる「越夜」を可能にする技術が不可欠となる。
その実現に向けた重要なステップとして、ミッション6では南極域特有の環境を活用する。南極近傍には、太陽が地平線付近を低い角度で回り続ける地点があり、夜間であっても機体の側面に太陽光が当たる可能性がある。こうした条件を利用することで、太陽光が完全に途絶える月の夜を避けつつ、14日を超える長期運用の実証を目指す。3|通信中継衛星で月面通信インフラ基盤構築
月南極近傍や月の裏側では、地球との直接通信が難しい時間帯や地点が多く、安定した探査や運用を行ううえで通信の確保が大きな課題となる。このため、通信を中継するための衛星が不可欠となる。ispaceは、ミッション6において、ランダーによる月面活動を支えるため、通信中継衛星を月周回軌道に投入する計画も示している。
この通信中継衛星は、ミッション6の期間中だけでなく、ミッション終了後も継続的に利用されることが想定されている。極域に限らず、月の裏側を含む将来の月面探査や有人活動への応用も視野に入れているほか、複数衛星によるコンステレーション化や、データ中継サービスの提供も想定。単発のミッションにとどまらない、月面での活動を支える通信インフラの基盤構築を目指している。
さいごに
ミッション6でispaceが取り組むのは、月南極近傍への高精度着陸に加え、月面での長期運用や通信の確保といった、月面活動を成立させるための基盤技術だ。これらはいずれも、資源探査や将来の月面利用を進めていくうえで避けて通れない課題でもある。
宇宙戦略基金事業を通じて、こうした技術の実証に民間企業が取り組む点は、日本の月探査が次の段階へ進みつつあることを示している。ミッション6は、水資源探査を見据えた技術開発であると同時に、その成果が月面全体での探査や利用へと広がっていく可能性を持つ取り組みとして注目される。
参考
ispace、宇宙戦略基金事業「月極域における高精度着陸技術」に採択!2029年に向けたミッション6の開発を正式に始動(ispace,2026-01-17閲覧)








