
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2025年11月5日、「革新的将来宇宙輸送システム研究開発プログラム」の第4回研究提案募集の採択結果を公表した。応募17件のうち7件が選ばれ、今後JAXAとの共同研究として進められる。
この制度は、再使用ロケットや有人輸送など、将来の宇宙輸送システムに関わる重要技術を早期に発掘し、産学官で共同開発するための枠組みである。
本記事では、制度の概要と採択結果を整理したうえで、採択企業のうち3社をピックアップし、取り組む内容についてご紹介する。
目次
プログラムの全体像
「革新的将来宇宙輸送システム研究開発プログラム」は、将来の宇宙輸送に必要となる技術を研究段階から育てるための共同研究制度である。
背景にある政策方針
背景には、国の方針として示されている「宇宙基本計画」などの政策がある。宇宙輸送の分野では、長期的に日本の自立性を維持することが重要視されており、産学官連携のもと、次期基幹ロケットの開発を進めるとともに、民間企業が主導する新たな宇宙輸送システムの事業化を促す方針が示されている。
JAXAはこの方針に沿い、輸送能力の大型化、再使用ロケット、低コスト化といった技術の研究を進めている。さらに、地上2地点を宇宙経由で結ぶ高速二地点間輸送(P2P)や宇宙旅行など、今後の市場拡大が見込まれる分野に向け、有人輸送に必要な要素技術の強化も進めている。
プログラム内容
本プログラムは、上記のような次世代輸送システムの実現に向け、性能向上や低コスト化につながる優先度の高い技術課題に取り組むものだ。
宇宙分野以外の企業からの提案も受け付けることで、事業化につながる初期アイデアを広く発掘し、その実現性と市場性を高める狙いがある。2021年の開始以来、多くのテーマが採択され、共同研究の成果が積み上がってきた。
研究は最大500万円のフィジビリティ研究から始まり、基本的には12か月以内の期間で実施される。成果が評価された場合は、総額1億円以下の支援を受けられる「課題解決研究」へ進むことができる。

第4回の採択結果
募集テーマと採択者一覧
本プログラムの第4回研究提案募集では、6つのテーマに計17件の応募があり、7件が採択された。各テーマの採択者は以下の通りである。

注目企業ピックアップ
ここからは、今回された企業のうち3社をピックアップし、それぞれの企業の特徴や取り組む技術についてご紹介する。
藤倉航装株式会社
藤倉航装は、航空機用装備や救命胴衣、航空機用装備や救命胴衣、パラシュートの分野で強みを持つ企業であり、自衛隊向けパラシュートや、小惑星探査機「はやぶさ2」の帰還パラシュートなどの製造実績を有している。
同社は今回、有人帰還に必要となる緩降下・着水/着陸・回収までを統合した帰還システムの基盤づくりを目指すテーマ「再突入後帰還技術(緩降下/着水・着陸・回収)の研究」に採択された。
有人宇宙船の帰還では、再突入後に機体を安全に減速し、衝撃を抑えて着水・着陸させ、確実に回収するまでの一連のプロセスが重要となる。しかし日本では、「はやぶさ」やHTV搭載小型回収カプセルで技術蓄積はあるものの、有人輸送に必要な大型化や高信頼度化はまだ十分に進んでいない。
本テーマでは、日本国内での運用を前提に、緩降下・着水/着陸・回収までを含むシステムアーキテクチャを整理し、必要な技術課題を洗い出したうえで、解決に向けた計画策定を進める。
藤倉航装は、これまでに培ってきた知見を活かし、有人帰還カプセル向けのパラシュートやフローテーションバッグ(着陸用エアバッグ)の検討を進めていく予定だ。
将来宇宙輸送システム株式会社
将来宇宙輸送システム(ISC)は宇宙へ行ったあと地上に帰還し、繰り返し使用できる再使用型ロケットを開発する企業。人や貨物の宇宙輸送だけでなく、宇宙空間を経由して地球上の任意の地点へ約1時間で到達する高速輸送プラットフォームの実現も目指している。
同社も藤倉航装と同じテーマ「再突入後帰還技術(緩降下・着水/着陸・回収)の研究」に採択された。
ISCは、今回の研究にて、有人宇宙船の開発に向け、大気圏再突入後に安全に着陸するための帰還飛行技術の検討を進める。再使用ロケットの運用や将来の高速輸送構想においても不可欠となる領域であり、同社が取り組む輸送ビジョンの基盤を強化するテーマと言える。

株式会社ElevationSpace
ElevationSpaceは、軌道上で実験を行った後にカプセルを地球へ帰還させる小型プラットフォームを開発する企業である。
同社は、有人輸送に不可欠な打上げ中の緊急退避(アボート)後の安全帰還シナリオと航法誘導制御の基盤づくりを目的としたテーマ「有人帰還を想定した打上アボート後の運用シナリオと航法誘導制御の研究」に採択された。
アボートとは、ロケットの打上げ中に異常が起きた際、宇宙船だけを切り離して緊急退避させる仕組みのことを指す。分離後は姿勢を安定させ、レスキューチームが待機する海域や島へ向かって飛行し、人体が耐えられる加速度の範囲内で着水または着陸させる必要がある。しかし、このような一連の運用方法や誘導制御の設計は、日本ではまだ十分に研究されていない。
本テーマでは、日本国内の海域を前提に、アボート実施後の運用シナリオを設定し、それに基づく航法誘導制御の基本機能や性能を整理する。機体形状や特性を踏まえ、成立性を評価することで、有人輸送に必要な安全基盤の構築を目指す。
ElevationSpaceは実験機器を安全に護りながら再突入・回収する技術を磨いてきた背景があり、打上げ異常時における「切り離し後の安全な誘導・回収」という今回の研究領域とも高い関連性を持つ。

さいごに
今回の採択結果は、日本がこれからどの領域に投資し、どの能力を強化しようとしているのかを示す材料といえる。再使用ロケット、有人帰還、緊急退避システムといったテーマが並んだことは、将来の国産有人輸送の実現に向けて、基盤部分の整備を優先的に進めている姿勢の表れである。
宇宙輸送の高度化は、人が宇宙に行く手段だけでなく、P2P輸送や宇宙旅行といった新しい産業の成立にもつながる分野である。今回選ばれた企業が取り組む研究は、その将来像に向けた基礎固めの段階に位置づけられる。今後の研究成果が、国内の宇宙輸送の選択肢をどのように広げていくのか、引き続き注視していきたい。
また、本記事でご紹介したElevationSpaceは現在、人材採用を強化している。興味のある方はぜひ、こちらからご確認いただきたい。

参考
革新的将来宇宙輸送システム研究開発プログラム(JAXA, 2025-11-21閲覧)
第4回RFP 研究課題(JAXA, 2025-11-21閲覧)
第4回 研究提案募集(RFP)【募集要項】(JAXA, 2025-11-21閲覧)




